美少女ゲーム年代記: 1997年5月23日「セカンド・インパクト――『To Heart』」
/* プロットの初出は http://d.hatena.ne.jp/./genesis/20060406/p1 */
- 屋上で毒電波という(当時としては)特異なモチーフで強い印象を与えた『雫-しずく-』(1996年)に始まり,『痕-きずあと-』を経て,『To Heart』(1997年,ASIN:B00008I4QF)でフォーマットが完成する。
まず『痕』ありき
今でこそ,美少女ゲームのトレンドを大きく変えた作品として認知されている『雫』だが,発売当初の認知度はさほど高くなかった。ビジュアルノベル第二弾として『痕』が発売されたところ急激に人気を集め,そこからシリーズの第一弾である『雫』にも遡ってプレイしたという例が多かった(少なくとも本稿の筆者の場合,パソコン通信を介して伝えられた評判を目にして『痕』を先に手に取っている)。
▼ 1996年7月12日~8月29日ソフトウェアセールス(『E-Login』1996年11月号に掲載)
リーフの出現が与えた短期的な影響に,命名法のトレンドを変えたことが挙げられよう。漢字1文字の作品名というのは強烈な印象を与えたこともあり,同様の命名が流行する。D.O.『虜(とりこ)』(1996年10月),D'z『嫉(そねみ)』(1997年12月),パールソフト『私(わたし)』(1997年1月),ポイズンブレス『刺(TOGE)』,May-be SOFT TRUSE『慾 ~むさぼり~』(1996年7月),同『歪み』(1997年2月),13cm『飼(かう)』(1998年1月),SAGA PLANETS『骸(むくろ)』(1998年2月)などが見受けられる。
ノベル形式の導入
ブランドとしての「Leaf」が発足してから『DR2ナイト雀鬼』 (1995年2月),『Filsnown ―光と刻―』(1995年8月)などが製作されたものの,注目されるには至らなかった。このような状況にあったリーフに高橋龍也(たかはし・たつや)が入社して打ち出した企画が《ビジュアルノベル》であった。そのアイデアの基となったのは,大人気を呼んでいたサウンドノベル『かまいたちの夜』(1994年11月)ないし『弟切草』(1992年3月)である(いずれもチュンソフトが発売した,スーパーファミコン向け作品)。- http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E7%84%A1%E6%9C%88%E5%BE%B9
- http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E6%A9%8B%E9%BE%8D%E4%B9%9F
この当時,テキストを読ませることに重きを置いた作品も数多くあったが,基本スタイルは画面の下部にメッセージウィンドウを配置し,2~3行単位で読ませることが主流であった。それに対して《ノベル形式》では画像の上に文字を重ね合わせていくという手法が採られており,自然とテキストに対する比重が高まることになる。
モチーフの目新しさ
パソコンゲームでは前例の無かったゲームシステムを取り入れたことに歴史的な意義があるのだが,それに加え,特異なモチーフを採用したことも『痕』&『雫』が注目されることになった要因となる。
まず『雫』であるが,大槻ケンヂの小説『新興宗教オモイデ教』(1992年,ISBN:4041847028)において描かれた〈狂気〉に満ちた空間をモチーフにしている。〈毒電波〉という語句に象徴される歪な精神世界が,美少女ゲームというポルノ性を帯びた娯楽メディアで展開されていた前例は思い当たらない。
続作の『痕』がモチーフにしたのは〈猟奇〉である。これも十分に特異ではあったけれども,日本プランテック『猟奇の檻』(1996年1月)などにホラー性を見ることができる。『猟奇の檻』シリーズは,シルキーズやエルフで活躍していた横田守(よこた・まもる)が原画を手掛けており,知名度も高い作品である。そのようなこともあって,『痕』が表面的に見せる〈猟奇〉性は同作を特徴づけるものではあるけれども,評価された要素というわけではない。
『痕』の高い評価は,柏木家の四姉妹それぞれに充てられたシナリオが織りなす複層構造と,個々のシナリオを束ねる〈伝奇〉という基層構造の組み合わせにあったと言える。
(※以下,未整理)
反復することを前提とするシナリオ構造
複数ヒロイン制と共通パート
目新しくないモチーフ
『痕』の成功によって一躍,注目を集めるようになったリーフであるが,シリーズの第3作としては当然のように特異なモチーフが続けて採用されることが期待されていた。それをあえて撥ね除け,学園を舞台にしたラブコメとして提示されたのが『To Heart』である。シリーズに対する既成概念を自ら打破すべく,作品名も漢字一文字ではなく英語で記された。
『To Heart』の提示した主人公モデル
「コミュニケーションをとることに対して積極ではない女の子」を理解してあげられるボク。- 姫川琴音: 超能力(未来予知能力)を有しているために,他人と交わることができない
- 来栖川芹香: ノッポさん(しゃべらない)
- 宮内レミィ: 外国人(常識に欠ける行動)
- 保科智子: 大坂人(同化を拒絶)
- 松原葵: 格闘技一直線(スポーツばか)
- 雛山理緒: 貧乏娘(経済的な困窮)
- HMX-12(マルチ): メイドロボット(人外)
- 神岸あかり: 幼なじみ(他の男は眼中にない)
志保シナリオの結末が浮いているのは 超先生が担当したからというのも多分に関係ありますが 作中では長岡志保だけが自律しており〈他者からの承認〉を必要としていないために,他のヒロインと構図が異なることによる。
達成から社交へ
■ プレイヤーコミュニティ論
Richard Bartle による MUD(マルチユーザーダンジョン)におけるプレイヤーの類型化
- Achievers(達成者。ゲーム内で強くなり成果を上げたい)
- Explorers(探検家。ゲーム世界を冒険し理解したい)
- Socializers(社交家。他プレイヤーと交流したい)
- Killers(殺し屋。他プレイヤーと戦い,競いたい)
http://www.4gamer.net/news.php?url=/news/history/2006.09/20060901234149detail.html
8年間に及ぶ有効期間
LVN(リーフ・ビジュアルノベル)三部作であるが,本稿の立場では『To Heart』こそが美少女ゲームにパラダイムシフトを起こした作品であると理解する。かかる位置づけは,作品単独の評価から生じるのではない。ゲームが単体として持つシステム的な目新しさからすれば,第2作の『痕』の方が先鋭的である。東浩紀『動物化するポストモダン――オタクから見た日本社会』(2001年,ISBN:4061495755)において,「シミュラークル」ないし「ノベルゲームの二層構造」を説明する素材として『痕』が用いられている(同書115頁以下)のは,その意味に於いて適切な考察であろう。しかし,後続世代への影響度の大きさに着目してみれば『To Heart』の方が数多くのフォロアーを生んだことがうかがえる。では,次章で『To Heart』を正統に受け継いだ作品群を見ることにしよう。いわゆる〈葉鍵系〉の系譜である。
関連資料
ある種のオタクコンテンツ――とりわけ、恋愛感情の絡むオタクコンテンツ――においては、童貞根性というかオタク的な恋愛感情というか、ある種の思春期恋愛感情がなければ十分に楽しめないのではないか?
恋愛を大きなテーマにしたオタクコンテンツに出てくる男性主人公キャラの女性観にはある種のステロタイプがあって……
とても奥手で内気で
- 女の子に興味があったり恋慕があったりしても,恥ずかしさや自信の無さ故に表明する事が出来ない
- しかも,そんな自分に言い訳するのが大好きで
- 告白することが出来ない
- 女の子が傷つくかどうかに過剰だが,実は自分が傷つくかどうかにはもっと過剰(当人は気づいてない)
- 体育会系は大抵苦手。かと言って,極端に文化系に秀でているわけでもない
それは、萌えゲの一部には言えることだけど,全般には言えないんじゃないかなあ。たしかに「ToHeart2」には当てはまりそうに思うけど、たとえばその前作「To Heart」には当てはまらない。「同級生」シリーズにも当てはまらないし、「ONE」や「AIR」や「CLANNAD」にも当てはまらない(「Kanon」はどうだろ,あんまりちゃんとやってないので分からん),最近だと,「ショコラ」や「この青空に約束を―」の主人公にも当てはまらない。
http://d.hatena.ne.jp/./NaokiTakahashi/20061023#p1
「To Heart2」の主人公が極端に内気な性格になったのは、たぶん前作と差別化するためだろう。この作品では、主人公とメインヒロインの性格や関係が前作とは逆に設定してある。
たとえば、前作では、朝になると幼馴染みの少女が主人公を起こしにきたが、「2」では主人公の方が起こしに行かなければならない。
http://d.hatena.ne.jp/./kaien/20061028/p1
「ヒロインと物語の関係」という点から、LVNSの3作品の変遷を考えてみよう。
- 「雫」・・・・・・・・「物語」に従順なヒロイン達。
- 「痕」・・・・・・・・「物語」を分担し、負担を減らしたヒロイン達。
- 「To Heart」・・「物語」を放棄し、全てが自由になったヒロイン達。
Q1.「リーフビジュアルのベルシリーズ」を企画したきっかけはなんでしょうか?
先ずあったのは、コンシューマーでお馴染みのあのシステムを用いてゲームを作ろうということでした。文章を前面に押し出すあのシステムは、ADVのひとつの進化の形だと思います。ADVが主流のこの業界なのに、まだひとつのタイトルも発表されていなかったので、『ならウチがやっちゃえ』とけっこう安易に決まったと思います。
「雫・痕制作スタッフインタビュー」、『雫・痕設定原画集』(コンパス、1997年、112頁)