美少女ゲーム年代記: 1992-1996「98DOSからWindows95へ」

VM仕様と86音源

 PC-9801シリーズは1982年に発売が開始され,様々なモデルが製作された。モデルチェンジのたびに新たな機能が加えられていったが,1985年発売の「PC-9801VM」で仕様が固まった。このモデルで採用された「5インチ2HDのフロッピィ・ディスク・ドライブ(FDD)搭載,横640ドット×縦400ライン,4096色中16色同時発色,アナログRGB2画面」という機能が,その後10年近くに渡る98DOS時代を通して維持されることになる。

 画面まわりの仕様について補足しておくと,「アナログRGB2画面」というのは「640×400の大きさの画像を2枚用意しておき,切り替えて表示する」か「つなげて640×800として扱い,実際に見るときは縦にスクロールさせる」という使われ方をした。後者の縦2画面連結というのは,ヒロインの立ち絵(あるいはベッドに寝そべっている姿)など,特に力を入れたいところで活用される。
 仕様のうち「4096色中16色同時発色」というのは,換言すれば「16色しか使えない」ということを意味する。そのため,後々まで色数の不足が美少女ゲームの作り手を苦しめた。しかし16色制限という問題は,描き手の熱意と創意工夫によって事実上の解決が図られる。タイル状に並んだドットに色を配置していくにあたりディザパターンを駆使して中間色を作り上げ,グラデーションを表現するといったことが行われたのである。このような技術を持つ描き手は「ドット絵師」と呼ばれ,尊敬の対象となった。

 1992年10月,PC-9821が発売される。このシリーズでは画面まわりが強化され「640ドット×480ライン,同時256色」が可能になったが,DOS時代のゲームではあまり用いられることはなかった。それというのもPC-9801シリーズのハードウェアを持つユーザーが依然として多数であったため,古い「VM仕様」でゲームは作られ続けたのである。

 その後,ハードウェアはモデルチェンジを繰り返しますが,美少女ゲームのユーザーが受けた恩恵は処理速度の向上と購入価格の低下であり,仕様に関する部分で大きな変化はありません。
 もっとも,9821仕様のうち音声に関する部分だけは9801にも広まります。9821で採用されたPCM音源は,別売りの音源ボードとして売り出されたため,VM仕様の9801シリーズに取り付けることで容易に機能の拡張ができたからである。従前の9801シリーズでは,VM仕様だとBEEP音しか無く,一部の機種にFM音源が搭載されているのみという状況でありました。その型番をとって「86ボード」と通称された音源は,ゲームユーザーの間ではほぼ必須と言えるものになります。

技術革新の歴史

▼ 『PC Angel』2002年12月号「美研」より

1992年 256色対応ゲームの登場  アリスソフト『Super D.P.S.』
  システムに時間の概念を導入  エルフ『同級生』
  メッセージスキップの一般化  エルフの作品など
1993年 Windows3.1 登場   
  グラフィックCGの達成率の普及  アリスソフト『あゆみちゃん物語』
  ヒロインをユーザーが設定するシステム  カクテル・ソフト『カスタムメイト』
  本格的アニメーションの先駆け  ソニア『VIPER V6』
  HDD専用ソフトの普及   
1994年 マルチシナリオ/マルチエンディングの定着  シルキーズ『野々村病院の人々』
  ザッピングシステムの普及  シーズウェア『DESIRE』
  シーン回想の普及  シルキーズ『愛姉妹』
1995年 Windows95 登場   
  CD-ROMが一般化し大容量時代へ   
  3Dレンダリングゲームの登場  イリュージョン『監禁』
1996年 ビジュアルノベルの普及  リーフ『雫』
  MIDI音源の普及   
  256色CGの普及   
1998年 Windows98 登場   
  フルカラー(65536色)CGの一般化   
  PCM音源でのBGM再生が普及   
  フルボイス普及  フェアリーテール『Natural ~身も心も~』
1999年 OPソング/EDソング/挿入歌の一般化   
  大容量ゲームの増加   
2000年 WindowsMe/2000 登場    
2001年 WindowsXp 登場   
2002年 DVDメディアのゲーム増加  アリスソフト『超昂天使エスカレイヤー』
  DVD-PGの増加   
  オンライン専用ゲーム登場  フェアリーテール『いたずら姫』