ivory 『わんことくらそう』 #1 人にあらずとも
なごみ成分への飢えにさいなまれたので,“ほのぼのADV”を謳うivory『わんことくらそう』(ASIN:B000E8BV4W)を買い求めてくる。MKで2,900円にて。
ヒトの形をした愛玩動物がヒトと一緒に暮らす世界。動物たちの知能は高くて会話もできる。キャラ造形にしても行動パターンにしても,人型動物たちが動物であることを意識させることはない。散歩の時になって首輪が出てきて思い出すくらい。
オープニングが始まる前の序章に長い時間が充てられており,主人公とヒロイン(=わんこ娘)の出会いを通してこの世界における価値観が伝達される。本編に入ったところで同居人を迎えるなどしてキャラクターの配置が仕切り直され,日常生活編が幕を開ける。人型動物たちの《春》,すなわち発情期の存在が提示されたところ(ゲーム内時間では4月13日)まで読み進めたところで一旦閉じる。
全体構成からすれば未だ序盤でしかないが,掲げられている主題(テーマ)を整理してみると―― これは『To Heart』におけるマルチ(HMX-12)シナリオと同じ構造だ。ただ,本作では世界に“悪意”が潜んでいる。人型動物たちを性的対象として扱う見方があることも示されている。序章が長めなのは,ヒロインの「みかん」が前の飼い主と別離する経験を描くことに費やしているからであり,わんこ娘の成長譚になっている。
人が人ではないものを愛せるのかという命題に対し,葉鍵系ギャルゲーの文脈にあっては,これを肯定する結論しかありえないだろう。社会的弱者に対する態度につき,それが偽善であるとしても善意でありたいと願うのが『ToHeart』と『ONE〜輝く季節へ〜』とを繋ぐ思想だったと思うのだけれど。
では,本作においてはどう扱われているのだろうか。続きを読み進めていくことにしよう。