ivory 『わんことくらそう』 #2 互恵的な利己関係

 ivory『わんことくらそう』(ASIN:B000E8BV4W)の桜海里沙編を終了。
 え〜ん。みかん(わんこ娘)がメインヒロインだと思っていたのに,シナリオが分岐したら人間が主役になってしまいました。しくしく。

この先,ネタバレを含みます。

 里沙は「みかん」の元の飼い主の妹。アホ毛装着。主人公の家に転がり込んできて,まかない役を引き受ける。
 奇妙な共同生活の行く末を追うシナリオなのですが,その面白さは一般受けはしない恋愛観を貫き通してみせたところでしょうか。主人公「祐一」は,共同生活を続ける“証文”としての恋愛を否定します。その代わりに提示するのが結婚。
 里沙の作るメシをこれからもずっと食い続けたい,だから結婚しよう―― 
 「愛している」「好きだよ」そんな言葉は登場してきません。古典的な美少女ゲームが目指していた「目的としての和合」の姿はありません*1。作中では「恋愛は夢,結婚は現実」という標語でまとめられます。
 2人と2匹で営まれる共同生活には,おいしい食事を作る役がいて,暖かい部屋を用意する役とがいて,発情したら発散しあう。家族とは愛情によって結合されるべきものであるという幻想を打ち破ってみせたうえで,互恵的な利己関係としての家庭の姿を『わんことくらそう』は提示します。それは,《乙女ちっく少女まんが》の思い描いていたガール・ミーツ・ボーイを通り抜けた先にある,とてもラジカルな認識。
 恋愛シミュレーションによって表現された恋愛/結婚観としては,1つの到達点を得たように感じます。《家族》をめぐる別解として山田一の『家族計画』,麻枝准の『CLANNAD』,瀬戸口廉也の『SWAN SONG』とを比較対照すれば興味深いことになるだろうか(考察としてはベタだけれど)。

*1:本作を企画した都築真紀は,『とらいあんぐるハート』においてヒロインらと結ばれた後に再び交渉を持つシナリオを書いたことでも知られています。