大学院はてな :: 店長の労働者性

 研究会にてブレックス・ブレッディ事件(大阪地裁判決・平成18年3月31日・労働判例925号66頁)を検討。
 被告Y社は,被告B社とフランチャイズ契約を結び,ある私鉄の駅構内にパンの製造・販売店舗を出店することにした。しかしながらY社の取締役らは別に本業を持っており,パン屋を経営したことがなかったことから,フランチャイザーであるB社に依頼して店長を派遣してもらうことにした。これを受けてB社はハローワークに求人広告を出し,これにXが応募してきた。説明においてB社は,Xを採用するのはB社ではなくY社であることを伝え,Xもこれに応じたことから,B社がY社にXを紹介し,本件店舗の店長として採用されるに至った。X‐Y間で締結された業務委託契約の内容は,

  • 1) 店舗の運営に関する費用はY社が負担する。
  • 2) YはXに,店長として本件店舗の管理運営を任せる。
  • 3) 報酬は,研修期間(2週間)は日当5000円,その後は月額25万円とする。
  • 4) 税務申告は,Xが個人事業主として行う。社会保険には加入しない。

というものであった。但し,上記(4)については,就労開始後にXが社会保険加入を求めたことから,Y社の取締役らが経営する本業(青果業)の方で加入手続が採られている。
 9月21日に本件店舗が開業した。Xは午前6時頃に出勤して午後10時過ぎまで勤務を続け,11月8日まで休みをとらずに就労していたが,体調を崩して退職した。
 そこでXは,自身が労働基準法上の労働者であると主張し,最低賃金法に基づく未払い賃金の請求等を行ったのが本件事案である。
 大阪地裁は請求を棄却した。
 しかしながら,本件はXが勝訴できる可能性が高かった事案であるように見受けられる。まず前提事情を述べておくと,法律では「人のために働く」という行為を3つの契約類型に大別している。

  1. 雇用(労働)契約: 他人の指揮命令の下に就労する
  2. 請負契約: 頼まれた仕事を完成させる(例えば,大工が家を建てる等)
  3. 委任契約: 頼まれた仕事につき精一杯努める(例えば,医師の治療行為)

 本件における「店長を任せる」というのは,契約書の上では委任契約であるとされていますが,Xはこれを労働基準法の適用を受ける労働契約であると主張したわけです。
 このような位置づけにある者を労働基準方法の労働者として取り扱うべきかについては,他にも紛争が見られるところです。例えば,映画の撮影技師,自分で車両を所有しているトラックの運転手,オペラ歌手,クラブホステスなどが労働者性を巡って訴えを提起した例があります。
 1985(昭和60)年に,労働省(当時)の設置した労働基準法研究会が『労働基準法の「労働者」の判断基準について』という報告書を出し,この問題について識者によって見解が表明されているところです。

 さて,判決では考慮要素を十数個並べ,それぞれを裁判所が検討して結論としては労働者性を否定したわけです。なるほど,本件での仕事の内容は店長という仕事なので裁量が広く認められます。しかしながら本件においては,Xに「仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由」が殆ど認められません。加えて,報酬の支払いも月額固定であり,さして高いわけでもない。
 してみると,本件原告XがY社との間で取り交わした「店長契約」は,法律の上では《労働契約》に該当するものであったと評価される余地は多分にあったと思われるところです。第一審でXが敗訴しているのは,原告側弁護士の訴訟戦術が失敗していたことによると感じられる節があるので,控訴審段階での行方に注目したい事案。