大学院はてな :: 偽装閉店と整理解雇

 研究会にて,J社ほか1社事件(大阪地裁判決・平成18年10月26日・労働判例932号39頁)を検討。
 被告Y会社は,パチンコ店を経営する会社。3店舗を擁していたが,2005年4月4日に経営状態の悪化を理由として店舗閉鎖が告げられ,同月28日に閉店し,従業員約30名全員を解雇した。ところが,2か月後の6月28日,同一の場所で再びパチンコ店がオープンし,名称は異なるものの同一の会社が経営していることが判明した。そこで原告Xらは,本件解雇が旧店舗の閉店を偽装したものであるから無効であると主張した。
 裁判所(裁判官:山田陽三)は,請求を認容。地位確認に加え,慰謝料(30〜50万円)の支払いも命じた。

 「ところで,Yらは,本件解雇の理由として整理解雇であることを主張し,一方,Xらは本件解雇が新店舗開店のための偽装閉店による解雇であると主張する。Xらが主張する偽装閉店が認められた場合は,整理解雇の主張の最大の根拠である旧店舗の閉鎖(の必要性)を否定することになるとともに,本件解雇が権利濫用であることを積極的に基礎付けることにもなる。
 そこで,以下,整理解雇に関する要件の検討に先立ち,偽装閉店の有無を検討することとする。」
 「旧店舗の閉店が偽装であるというためには,閉店の時点で,既に新店舗の開店を計画していたことが必要十分条件であるといえる。」
 「旧店舗の閉店と新店舗の開店には2か月の間隔があるが……その間に,大規模な改装工事があり(中略),その時点までに,設計を含め,いろいろな準備が必要であり,しかも,多額の開店資金を要することを考えると,これらの新店舗の開店に向けての準備(工事と資金の確保)を旧店舗の閉店時である4月28日以降,初めて計画したものとは考えられず,それ以前から計画していたものといわざるを得ない。」
 人件費が,旧店舗では月額1590万円であったものが新店舗では約1000万円と減少していることは,「旧店舗の閉店による従業員の全員解雇によってのみ成し遂げることのできた経費削減(中略)というべきであるが,旧店舗の偽装閉店の大きな動機であったことを強く推認させるというべきである。」
 「以上を総合すると,Hは,平成17年4月4日の時点で,F銀行から多額の入金が予想されたことから,旧店舗を一気にリニューアルし,かつ,人件費の削減を実施するために,新店舗の開店計画を秘したまま,全従業員を解雇した上,旧店舗を閉店したと認めることができる。」
 「本件解雇は,新店舗の開店計画を秘したまま,旧店舗の閉店を理由に,Xらを含む全従業員を解雇したものであって,それ自体で,解雇権を濫用したもので無効というべきである。

 私見だが,結論は支持するものの,判旨の理由付けに疑問あり。
 本件を「整理解雇法理」にあてはめてみると,(1)経営は黒字であり整理解雇に踏み切る必要性が弱い,(2)一時帰休レイオフ)などの解雇回避措置が講じられていない,(3)全員解雇しており人選の合理性が欠如している,(4)欺罔的な解雇理由の説明が行われている――といった状況が認められるから,整理解雇は無効(=従業員たる地位確認請求を認容)との結論が導かれるだろう。
 しかし,本件は整理解雇法理の検討に立ち入る前段階で「それ自体で,解雇権を濫用したもので無効」としているので,この論理構造をどう解釈するかが今回の論点。
 この事件,経営者が偽装行為を行わず,真っ正面から「リニューアルのため長期間にわたって休業しますので,全員を解雇します」と言っていたならば,理論的には興味深い事案になっていたことと思う。