永田諒一 『宗教改革の真実』

 永田諒一(ながた・りょういち)『宗教改革の真実――カトリックプロテスタントの社会史』(講談社現代新書2004年,ISBN:406149712X)を読了。
 副題に〈社会史〉と銘打っているのが本書の肝,らしい。「社会のなかの普通のひとびとの暮らしぶり」に焦点をあてる,ということらしく,『宗教改革の真実』と言いながらも三十年戦争ユグノー戦争などには全く触れない。
 冒頭では,ルターは『95箇条の論題』を扉に貼ったのか否か,という些末なことから始まる。それから,木版画のパンフレットや聖画像破壊運動(イコノクラスム)などを題材にして民集の間に宗教改革が広まっていく様子に触れたあと,第7章以下で「修道士の還俗と聖職者の結婚」や「宗派が異なる男女の結婚」などアウグスブルク市での具体例を素材にエピソードを展開する。
 興味深かったのは,第11章「グレゴリウス歴への改暦紛争」。1582年に教皇グレゴリウスXIII世によってグレゴリウス歴の改訂が行われたが,カトリックの首長から法王勅書によって発布されたものであったため,プロテスタント諸国では導入が遅れた。ドイツの場合は1700年の採用であり,百年以上もの間カトリックプロテスタントで祝祭日にズレがあった。新旧両派の共存が行われていたアウグスブルク市では,その多くがプロテスタントであった精肉販売業者たちがカトリック住民を困らせようとし,謝肉祭(カーニバル)前に実施される肉食断ちを長引かせたのだとか……。
 こうした幾つかのエピソードは興味をひくものの,〈社会史〉であるが故に著名な出来事は登場せず,盛り上がりに欠けるのは否めないところ。別な書物で政治史を紐解いたうえで,副読本として読むのが相応しい性格のものだろう。