桂遊生丸 『Roman』

 桂遊生丸(かつら・ゆきまる)の新刊『Roman(ロマン) 〜朝と夜の物語〜』の第1巻(ISBN:408877406X)を読みました。
 ゆきまる作品は〈作者買い〉だったので手に取るまで知らなかったのですが,帯によると『Sound Horizon』の手になる同名組曲をモティーフしたサウンドコミック,だそうです。発売元である集英社のサイトで原曲の試聴ができるのですが,そちらを観ることでようやく本作の位置づけが(おぼろげながら)理解できます。

 コンセプトは,生と死が《焔》の如く瞬く世界へと遣わされた使者が《物語=ロマン》を集めていく,というもの。第1話については上記サイトで試し読みができます(と,ここまで書いてから検証のために参照したところ単行本では大幅に加筆修正されていて,雑誌掲載版とでは幕開けの意味合いが相当に異なることに気付いたのですが……)。ちなみに,ゴスロリ少女さんは第2話以降,インターリュードにしか出てきません。
5th story CD「Roman」
 この巻では,上述の序幕を含めて5つの《物語》が収められています。

「生まれてくる朝と 死んで行く夜の物語」

とも記されているように,いずれも死の翳りを帯びつつも,暗闇に現れ出づる星の如き僅かの光明を短編連作の形式で綴っていきます。ト書きに連ねられている文字が多いのですが,察するにこれが原曲との対応になっているのでしょう。原曲を知る者に対しては共鳴を呼ぶ言葉になっているのだと思います。そういった事情に不知であると,縦書きと横書きとが混在する文字列に視線が困惑するところがありました。
 組曲形式でありますから作品の終幕で《物語》が統合されていくのだと推察しますが,それは未だこの巻では編まれていないところ。
 主題(短編)を個別にみておくと,第3話「星屑の革紐」が出色の出来でしょう。星(Etoile)の名を授けられながらも星を視ることのできない弱視の少女エトワールと彼女に沿う犬の《物語》。エトワール(15歳)かわいいよエトワール(8歳)。社会的弱者を主人公にして組まれた話で安定した骨格があるということもありますが,この話は〈夜〉の引き受け方が後味の悪さを残さない(換言すれば『フランダースの犬』的ではない)ので。

 背景事情(原曲)を知らずに読んでも楽しめるものになっていると思います。ストーリーはそこそこベタですが,安定した造りであるということでもあり。