北村薫 『空飛ぶ馬』

 昨晩読み始めたのは,北村薫(きたむら・かおる)のデビュー作であり《円紫師匠と私》の第一作である『空飛ぶ馬』(初出1989年,ISBN:4488413013)。
 近世文学の教授と鉢合わせしたのが契機となって研究室で珈琲をいただくことになり,さらにそれが縁で落語家・円紫師匠とのインタビューに同席することになり―― と人の繋がりが生まれていく「織部の霊」。続く「砂糖合戦」では《日常の謎》というスタイルの面白みを提示。友人と連れだっての蔵王旅行「胡桃の中の鳥」はキャッキャウフフな旅行記と見せかけておきながら,ここぞというところで幕が落ちる。あれよと思う間に歯医者の待合室で夜中の公園に現れるという「赤頭巾」の存在を知らされる。《日常》の表面化に潜む滓(おり)を見せつけられたところに「空飛ぶ馬」が提示されることにより,初雪のような清々しさをもって終幕。
 互い違いの性格を持つ5本のエピソードが重ねられることによって醸し出される作品としてのまとまりが見事でありました。