ジャンル名の冗長化に関する歴史的考察

 ゲームの分類法については,昨夏にthen-dさん企画による評論本『永遠の現在』に駄文を書きました。要旨を書き出しておくと,1980年代にゲームの分類方法として定着した《ADV》《SLG》《RPG》という基準が,

  1. プリンセスメーカー』(1991年5月,GAINAX)ないし『卒業~Graduation~』(1992年6月,JHV)による〈恋愛シミュレーション〉の成立
  2. AVG系とSLG系という2つの流れがRPG型のゲームシステム上で融合した『同級生』(1992年12月,elf)の登場
  3. AVGRPGSLGという分類手法を相対的に無効化したLeafの〈ビジュアルノベル〉三部作(1996年7月~1997年5月)

――という経緯を辿っていくなかで,アルファベット3文字によるジャンル表記が購買の指標にならなくなっていったことを示しました。
 ここまでは昨夏に考察を展開していたのですが,さて,ジャンル名の冗長化が始まったのはいつ頃だったか。
 直感で立てた仮説は,アリスソフトAliceSoft)起源説です。かなり以前からジャンル名で遊んでいたという覚えがある。そこで,裏表紙がアリスソフトの広告で占められている『E-Login』のバックナンバーを漁ってみたところ,1996年6月号掲載の『学園KING』では「学園青春バトルらぶらぶミステリアスうきうきフィールドタイプRPGを謳っていることが確認できました。長いです。

 ただ,これが他のソフトハウスに波及したのは,かなり後になってからのようです。『パソコンパラダイス』『PC Angel』といった創刊時期の古い雑誌は,ジャンル分類については簡潔な表記が長く続きます。
 変化が見えやすいのは『カラフルPureGirl』でした。同誌「ソフトラッシュスケジュール」に掲載されたイレギュラーなジャンル名を抜き出してみると,2000年の中頃を過ぎてから目に見えて錯綜したものが多くなります。

掲載号  ジャンル分類  作品名  ソフトハウス 
2000年2月号 カウンセリングSLG 依頼人1』 (Factor)
学園ラブコメAVG 『INNOCENTな天使たち』 (for)
誘拐調教SLG 『あえぎの館2』 アクエリアス
旅情AVG 『ロードラブストーリー』 (Corett)
妖精愛玩SLG 『My☆フェアリンク (ライトプラン)
徹底フェラチオ専門ノベル 『Luvllatio*Maniax』 (ANOTHER ROOM)
メイド生活SLG 『MAIN iN HEAVEN』 (PIL)
多汁AVG 『放蕩仙女』 (MEGAMI)
盲目純愛AVG 『光を……』 LiLiM
2000年3月号 ブコメ経営AVG 『葵屋まっしぐら』 ソフトハウスキャラ
2000年4月号 フェロモン誘惑AVG 『みらくるテンプテーション!!』 エスクード
2000年5月号 カルト宗教AVG 『猥』 ハイパースペース
ミレニアム探偵AVG 不確定世界の探偵紳士 (デジアニメ)
超パズルタイプ略奪SLG 『皇帝陛下になろう!』 (r.)
動物娘捕獲虐待SLG 『ぐれえとハンティング』 大吟醸
鬼畜シアターノベル 『鬼ノ棲ム桜』 (ANOTHER ROOM)
家庭内陵辱調教SLGAVG 『家族の絆』 (BIND)
2000年6月号 シュール系エロAVG 『トイレの女神様』 オーサリングヘヴン
私語りAVG 『檻の中のわたし』 (CAGE)
2000年7月号 海上パニックAVG 『暁の岩礁 (ARIEROOF)
マルチ秘め事SLG 『ぺろぺろCANDY2』 (ミンク)
2000年9月号 病院探偵AVG 『SHE is...』 (BELL-DA)
エロティック料理SLGAVG 『さすらいの料理人』 ユピテル
ドラマティックアニメーションAVG 『eye's ONLY』 (ainos)
おバカAVG 『見参!! 桃ちゃん侍』 アクアハウス
スーパーロリロリAVG 『おまかせ☆でまかせ』 (Triangle)
スポーツ陵辱AVG 『Sweet Pleasure』 (Cronus)
どきどき岸作成SLG プリズム・ハート ぱじゃまソフト
シュール系陵辱AVG 『凌辱鬼』 (コンプリーツ)
潜水艦ドタバタパニックAVG 『凱旋! 無花果艦長!』 (びい・えふ)
2000年10月号 詰めRPG 『零式』 アリスソフト
大逃走SLGAVG 『うえはぁす』 ソフトハウスキャラ
のびゲー 『Cherry boy Innocent girl』 LIBIDO
ケツゲー 『ぶるまー2000』 (Liar-Soft)
純愛もの学園恋愛ビジュアルノベル 『笑わないエリカ』 (ペンギンワークス)
2000年11月号 サイコサスペンスAVG 『Love call』 (ミンク)
和風ドラマティックAVG+ノベル 『浪漫珠』 (AngelSmile)
死人復活AVG 『神サマお願い!!』 (BELL-DA)
3Dインタラクティブ強制愛撫SLG 『INTERACT CITY』 (Dreams)
コミカル覗きマネージメント 『B.B. Oh,Yes! Jonny!』 (フェアリーテール)
車内調教SLG 『車畜』 アーカムプロダクツ
美姫調教SLG EXILE ちぇりーそふと
情愛育成SLGAVG 『Choir』 (Rateblack)
インモラル・エロコメAVG 『Don't Stop ママ?!』 オーサリングヘヴン
星座AVG 『星降る里へ』 エスクード
おバカAVG 『開運戦隊 巫女さんレンジャーリベンジ』 アクアハウス
純愛コミカルAVG 『るな・シーズン』 (えみゅ~)
シュール系ハードボイルド調捜査AVG 『CASE266』 (コンプリーツ)
2001年1月号 ブコメえろベンチャー 『Cute』 (for)
リアルタイムノベル 『空のたかく』 (UNCANNY!)
対戦ラヴほたAVG 『HAPPY螢荘』 (WAFFLE)
釣りゲー 『女釣り』 (ZENOS)
やるコメAVG 『めぞんなやつら』 (エクセルタ)
バイオレンスアクションAVG 吸血殲鬼ヴェドゴニア ニトロプラス
学園熱血ラブコメAVG 『Cosmic Girls』 (ギルティ)
純情青春AVG 『青い鳥』 ぱんだはうす
ぶっかけAVG 『ぶっかけ天使ミルキー&シルキー』 (エヴォリューション)
3D尾行ゲーム リバーシブルフェイス』 (イリュージョン)
触手テーブルゲーム 『淫獣幻夢3』 (リンガーベル)

このようなものが見受けられます。全数調査ではないので正確ではありませんが,概ね次のような結論が導けるかと思います。

  • ジャンル名の冗長化現象が広まった原因を,特定の作品ないしソフトハウスの影響として指摘することは難しい。
  • 冗長化という手法は以前より存在していたが,2001年頃には一般化した

 で,あともう一つ付け加えるとすれば―― 

でしょうね。調べなくても言えそうな陳腐な推論ですけれど。
 冒頭で一旦アリスソフト主因説を提示して放棄しましたけれど,ここで改めてAliceSoftの動向と照らし合わせてみます。2000年7月6日に『SeeIn青(シーンAO)』を発表していますが,〈学園もの・純愛系・コマンド選択式〉という巷にごくありふれたスタイルでありました。これが逆にアリスソフトにしては珍しい傾向を持つ作品だと位置づけられることになります。

 ジャンル名冗長化に少なからず影響のあったアリスソフトに敬意を表して,この現象は『SeeIn青』以降に顕著である――と締めくくることにしましょう。ちなみに『SeeIn青』のジャンル分類は「AVG+LoveLove」です。

SeeIn 青 SeeIn 青 ~シーンAO~