国立西洋美術館 『ハンマースホイ展』

 午前中は研究会に参加。
 帰路,上野に立ち寄り,国立西洋美術館で開催中のヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情』を観る。11月16日放映のNHK新日曜美術館』を観たところ大変に興味を惹かれ,実際に対面するのを楽しみにしておりました。

 ハンマースホイ(Vilhelm Hammershøi, 1864-1916)はデンマークを代表する画家のひとり,らしい。所蔵先を見ると,うち何枚かはコペンハーゲンを旅行した時に見ているはずなのだけれど,名前には記憶がありませんでした。作風としては,誰も居ない部屋,人のいない宮殿,視線を合わせぬ肖像画など,静けさの支配する空間を描くところに特徴を持つ。
 実物を観て驚いたのは,まったく凹凸のない画面。紙に描いた水彩画と思うほどに表面が滑らか。よくよく目をこらしてみると,実に目の細かいキャンバスに描かれた油絵だと分かるのですが……。色合いにしても,白と鉛色を多用したモノトーンに近いもの。
 今回の展示では,同時代の画家としてピーダ・イルステズ(=ハンマースホイの妻の兄)による構図の良く似た作品も用意されておりました。画面の(枠の)取り方は似通っていても,人物の視線の向き,そして何より暖かみのある色が加わることで受け止め方が大きく変化します。イルステルズも決して下手ではないのですが,ハンマースホイの画面を覆う死に絶えたような静謐さが与える印象に比べると平凡なものに見えてきます。
 お気に入りは《ゲントフテ湖,天気雨》でした。薄曇りのなか,湖面に一条の光が差し込んで波頭だけが煌めいている――という構図。カタログを手に取ってみたのですが,この作品に込められた光線の具合が再現されておりませんでした。個人蔵だそうで,この先もう逢えない絵かもしれません。