本田由紀 《現代の若者の労働問題》

 夕方,札幌弁護士会の主催による本田由紀id:yukihonda)先生の講演を聞きに,札幌市教育文化会館へ。360人収用の小ホールが窮屈なくらいに大盛況でした。
 結論として述べられたのは,

 ある時点で不利な状態に陥った人が いつまでも不利でい続ける必要がなく,
 人々が できるだけ不利にならないための準備や支援が 幅広く提供されており,
 人々が 自分の尊厳と他者への敬意をもって生きていくことができる,
 そういう社会を 少しでも作っていくための地鳴りを生みだしてくれるよう お願いします。

というもの。「憲法市民講座」という場であったことを差し引いても,ヒューマニズムに溢れた締めくくりの仕方でした。
 ただ,その結論に至るまでが(分量的に)凄まじかった
 最初に〈雇用形態の変化〉を各種のグラフを用いて示して若年労働が非正規雇用に偏っていることを示し,非正規労働者の収入・労働時間をデータで確認してから仕事の満足度・自己能力評価についてのアンケート調査を分析し,仕事へ取り組む姿勢として「お客様に喜んでもらえるように」という意識があることは就労形態に関わりなく共通して存在していることを摘示しつつ,若者の雇用形態は家庭環境と学校教育と関連性を有していることを指摘し,雇用/家庭/教育/政府によって構成されていた戦後日本社会のモデルが破綻したと喝破し,学校教育への公的投資が過度に低いことを統計から明らかにしたうえで,社会構造に問題点が見出されるべき若者の労働が「パラサイト・シングル」「フリーター」「ニート」に対する偏見を帯びた捉えられ方によって「人間力」「生きる力」という精神論に歪められてしまったことを嘆き,結論として社会システムの再構築を提唱する――という流れ。
 立論の中心は,参考資料として配られた『思想地図 vol.2』(ISBN:4140093412)所収の「毀れた循環」でありましたが,これまでの単著で扱っていた話題は結論だけではなく立論部分からすべて網羅していたし……  
若者と仕事―「学校経由の就職」を超えて 多元化する「能力」と日本社会 ―ハイパー・メリトクラシー化のなかで 日本の〈現代〉13 「ニート」って言うな! (光文社新書) 「家庭教育」の隘路―子育てに強迫される母親たち 軋む社会 教育・仕事・若者の現在 
 正社員と非正社員のダブルトラック(この場合は,両者の間には移動障壁があり処遇格差もある,の意)の説明では 

  • 正社員: membership without job 
  • 非正社員: job without membership 

という話をしていて,聞き覚えがあるなぁと思ったら「これは濱口桂一郎さんの言っていることでして」とか,引用・参照も盛りだくさん。由紀先生,頑張りすぎです。PowerPoint換算で96枚。テーマの1つに〈苦境の自己責任化〉というのがありましたが,べつにご自身で身を以て示されなくても……。1時間の予定を30分超過したので,何とか無理に終わらせたという感じでした。
 端折られたのが本田先生の本領である〈教育〉に関わる部分であったために,参加者からの質問がズレた方向に行ってしまったのが残念なところでした*1

*1:質問1「ケインズ主義に戻るべきでしょうか?」,質問2「ワークシェアリングってどうですか?」,3と4は身の上相談。最後に弁護士会から挨拶という名の長噺がありましたが,これも酷かった。