大学院はてな :: 年俸制を導入して徐々に賃金を引き下げたら

 学校法人実務学園ほか事件千葉地裁判決・平成20年5月21日・労働判例967号19頁)を読みました。
 被告Yは建築士の養成をしている専門学校で,原告労働者XはYにおいて教員をしている者。この学校では従前,年功型賃金体系をとっていたのですが,平成14年に給与規定(就業規則)を変更して年俸制を導入しました。平成15に改定された規定では,次のように書かれていました。

「年俸金額は,前年度の学校業績及び個人業績,担当業務の難易度・責任度等を勘案して理事長が決定する。」

つまり,年俸額の決定については使用者の完全な自由裁量となっています。通常,フリーハンドを得ていたとしても減額は慎重に行われることが多いものですけれども,この学校では早速,賃下げに取りかかりました。

  • 平成12年度(年功型) 年収740万円
  • 平成14年度(成果主義型を導入) 年俸611万円
  • 平成15年度 年俸582万円
  • 平成16年度 年俸448万円
  • 平成17年度 年俸450万円

このように,減額が毎年繰り返され,平成12年度に比べると平成19年度はマイナス39.2%,金額にして290万円の減収になっています(もちろん,Xの従事した業務の内容に変更があったわけではなく,何らかのペナルティとして減額がされたわけでもありません)。本件における使用者の態様は悪質であることから,裁判所はXを自主退職に追い込む意図をもってなされた「Xの人格権を侵害する違法な行為として不法行為に該当するというべきある」と述べ,賃金差額分を支払うよう命じました。
 理論的に興味深いのは,このような減額を違法であると構成する組み立てでしょう。本件の場合,就業規則の不利益変更法理を適用し,使用者の一方的評価の下に給与を決定することが可能となるような方法を定める給与規定は「その内容において相当なものとは評価することはできない」とし,就業規則変更の合理性を否定しています。
 しかし思うに,就業規則の規定が入社当時から使用者の裁量を許すものであったとしても,毎年毎年,前年より年俸額を引き下げていくことで賃金を減額していくことは権利濫用と言えるものでしょう。ただ,成果主義型賃金体系の場合における減額改定の当否については未だ事例の蓄積がないので,裁判所を説得するのが大変そうです。