梅田星也 『日本語先生奮闘記』

 外国人留学生への対応について何か参考になる文献で,小手先の技術を披露するのではなく理念を語っているものはありませんか? と日本語教育担当の教授に尋ねたところ,梅田星也(うめだ・せいや)『日本語先生奮闘記――中国で思う外国語教育のあり方』(ISBN:4469243434)を紹介されました。著者は1929年生まれ。太平洋戦争直後に小倉の米軍キャンプで通訳をした後,高校で英語教師をし,1987年から長沙大学(中華人民共和国湖南省)にて日本語を教えていた方が書かれたもの。
 出版は1993年であり天安門事件前後の状況も出てくるが,教育論としては今でも通用する。全3章構成であり,第1章から第2章にかけては中国人が日本語を学んで生じたおかしなエピソードが披露される。これも十分に面白いのだが,教育哲学の話としては後半が興味深い。
 例えば教材の作り方。日本であれば,教科書には要点のみが記されており,教師が黒板に板書したものをノートに書き写すことによって教育が完成するという
「奥義は秘す」方式。それが中国の教科書は必要な事項はすべて書き込んであるので,ノートをとる必要がないように出来ている。単語の意味などもすべて書き記してある。言うなれば「虎の巻」「アンチョコ」のような造りだという。生徒は,辞書を調べるために時間をとられることもないので,ひたすら覚えることに努めれば良い。さらに,覚えるべきとされる内容も異なる。日本式だと“This is a pen.”に代表されるように単文であるが,中国式では“問いかけ”とそれに対する“応答”とが組み合わせになっている。著者曰く,初学者にとっては(単語を2000語程度覚えるまでの期間には)中国式で進めた方が実際に話せるようになるのではないか,と。
 なかなか考えさせてくれる本でありました。