大学院はてな :: 保育所利用関係における合意の拘束力

 社会保障法研究会にて、亘理格(わたり・ただす)氏を招いて高石市立東羽衣保育所民営化事件*1の検討。市立保育所のうちの1つを廃止して社会福祉法人に移管したことにつき、転園を余儀なくされた児童らが、当該廃止措置の取消を求めた訴訟。第一審は請求を棄却。
 この事件の鑑定意見を亘理教授が書いておられ、近く刊行される共著 『「民」による行政』(ISBN:4589028301)に加筆のうえ収められている。その内容を御本人から伺った。
 平成12年に児童福祉法24条1項ないし3項が改正され、保育所利用関係が一方的権力的法律関係から双務的な利用契約関係となったことに鑑みて考察を進めている。保護者は保育所を理性的に選択したのであるから、原則として当該児童の保育実施期間中は保育所を存続させるべき義務があるのではないか――というのが主旨。そのうえで、事情の変更を理由として一方的に変更・修正が可能となる場合を論じる。
 どんなに長くても6歳になれば就学して対象者はいなくなるので、保育については移行期間を設けて徐々に対応していこうという大変スマートな議論(手続面を重視した法律論)でした。おそらく運動論としては別のところに主眼があるのでしょうけれど。

*1:大阪地裁 平成16年5月12日判決 『賃金と社会保障』1385&86号103頁

大学院はてな :: 国家賠償請求と不法行為の競合

 社会保障法研究会にて、社会福祉法人積善会暁学園事件*1の検討。民間養護施設において入所児童により集団暴行を受けて障害を負った者が、社会福祉法人に対しては民法715条の使用者責任、県に対しては国家賠償法1条1項に基づいて損害賠償の請求を求めた事例。第一審は、国賠請求のみを認めた。〔→判決原文
 民間養護施設の職員は組織法上の公務員ではないが、公権力の行使を委ねられた者をみなし公務員として「国家賠償法上の公務員」と擬製するというのは判例の蓄積があり、異論はない。
http://www.ops.dti.ne.jp/~andm/data2/2004k12.htm 〔正木宏長氏の講義録〕
 しかし、国賠請求を認容すれば不法行為請求は排斥される、とは必ずしも言えないのではないだろうか――が議論の焦点となった。たしかに判決では、公務員個人に不法行為責任を負わせないとする最高裁判例*2を挙げている。しかしこれは、社会福祉法人の責任を認めない理屈としてはおかしいのではないか。福祉施設の職員個人と、団体としての福祉法人との差異が整理されていなかったように思える。
▼ 措置制度の法律関係*3

*1:名古屋地裁 平成16年11月12日判決 『賃金と社会保障』1387号42頁

*2:最三小判 昭和30年4月19日 民集9巻5号534頁

*3:倉田聡『これからの社会福祉と法』(ISBN:4794440340)24頁より