YU-NO

 『YU-NO』に対しては、さらにテクスト論的に触れてみることにした。構造を抜き出しているうちに、AIRが技法を踏襲していることに思い当たる。YU-NOとの比較を行うことにより、AIRの作品作りの失敗点である第2部に影響を与えない第1部の存在――すなわち、遠野美凪シナリオと霧島佳乃シナリオはキャラ萌えとしての意味しか与えていないこと――を、明確にすることができるだろう。

 YU-NOの物語性における特徴としては、まったく性格を異にする展開形態――第1部「併行世界編」と、第2部「ユーノ編」――が、同一の作品の中で同居していることを挙げられよう。すなわち、第1部においては一体化していた「ゲームの中の主人公」と「操作するプレイヤー」とが、第2部の冒頭において突如として切り離されるのである。これは、主人公がプレイヤーに対して話しかけるという動作を行うことによって示されている。そして、紙媒体の小説を読み進めるようにして物語が進行をはじめる。
 この変化は、「それまでとは違う物語空間」への移動が起こったことを宣言する機能を果たしている。第2部に選択肢はほとんど無いため、プレイヤーに対して要求されるのはクリックすることだけである。かかるゲームシステム上の転換は、プレイヤー(読み手)に思考を挟む余地(=物語世界が転換したことに対する疑念)を起こさせないように誘導している。この手法は、後に“AIR”(VisualArt's/Key)において模倣されている。