Senor.D. Kenno

 夕方(=日本時間では新年)から、剣乃ゆきひろ氏の業績をまとめる作業に入る。私がPC-VANパソコンゲームSIGで論陣を張っていた時期(1991年から1996年まで)は、当然の如くインターネット前史なので、さかのぼって言及しておかないと「存在しない情報」になってしまいかねない。

 すでに各所で言及されている所であるが、コンピューターゲームの1つの特徴として、物語の進行を製作者の意図するようにコントロール可能であることが挙げられる(例えば、最初にあとがきを読むことは出来ない)。この利点を存分に活かしたシナリオを、ゲームシステムのレヴェルに於いて組み込むことを成し遂げたという点において、剣乃氏の名は記憶されてしかるべきである。
 剣乃氏の名を高めたのは『DESIRE‐背徳の螺旋‐』であった(シーズウェア)。この作品においては、同一の時間の反復という手法を用いた。すなわち、ある出来事を「Aの視点」と「Bの視点」のように複数の位置から捉えている。各々の時間は独立し、順行している(同じ主題を扱った映画の同時上映のように)。さらに最終シナリオを読了することにより、本作における時間の流れは、副題が示すように「螺旋」の形態をとっていたことが理解される。
 続く『EVE burst error』(シーズウェア)では、相互に干渉する時間を描いた。つまり、「Aの朝」→「Bの朝」→「Aの午後」といった具合である。読み手は、2つの人物の視点を行き来することにより、徐々にシナリオを読み進めていくことになる。
 こうした物語時間を制御する努力は、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』(略称YU-NO)によって完成に達したと言って良い。この作品の第一部では4人の人物との関係をもとに物語が展開していき、複数の時間軸(分岐した世界)を縦横無尽に往来することによって、謎解きが進められる。“EVE burst error”においては視点の切り替えをどの時点で行うのかの判断に困難を生じていたが、本作では時間を絵地図で表すことにより難点の克服に成功している。