第4節

 評議会で最初に争われたのは、女性の胸郭のふくらみ具合が大であることを表す語句がキーワードとして適切であるか否かであった(以下、議案第1号)。次いで評決にはかられたのは、不倫について綴るサイトの名をキーワードとすることの可否である(以下、議案第2号)。この2つの詳細について検討することは、本稿の関心とするところではない。ここでは、キーワード作成ガイドラインとの関係において、両者はまったく性格が異なるものであることを指摘し、結論の射程範囲*1を明らかにしておきたい。
 まず議案第1号であるが、これは利用規約にもガイドラインにも含まれている判断基準である「公序良俗」に該当するかどうかが争点であった。あまり聞き慣れない言葉だろうが、法律を論じる際に頻繁に登場する用語である。関係する民法90条の本文の方がわかりやすい。考えるべきは「善良なる風俗」とは何か――である。ワイセツではないが低俗な語句をキーワードとして許容するのかというのが問題点であり、ガイドラインの条項の当てはめ方についての議論であった。これは当該一語のみを射程範囲に置くものではなく、同じような性格を持つ俗語に対しても判断基準として作用する。
 対して議案第2号で争点となったのは、(A)不倫という語句を含む個人サイトをキーワード登録することの可否、(B)リンク先のサイトの内容をキーワード採否の判断基準とすべきかどうか、(C)第三者言及性である。多岐にわたっているため全てを捕捉できていないが、それぞれの当否を論じることが本稿の目的では無いので、このまとめに不備があることはご容赦願いたい。ここで述べたいのは、論点を1つに整理できないまま事態が推移したため、この評決の射程範囲は他の事例に及んでおらず、ここから新しい原理原則を引き出すことができないということである。2月29日の議案修正によって混然となってしまったことが、ますます混乱を深めた。この議決は、あくまでこの一件をどう収束させるかだけの役割しか持っていない。これを契機として、問題になった論点をガイドラインの内容に反映させるべく議論を展開していくほかないだろう。

*1:射程範囲というのは裁判例の分析をする際に用いられる術語である。ある裁判で結論が出された時、似通った別の事件に対してどの程度の影響力があるのかを論じる際に登場する。