坂の上の雲 (3)

新装版 坂の上の雲 (3) (文春文庫)
 続いて第3巻。前半は日露戦争の開戦前夜。その準備にあたった人物、山本権兵衛(ごんのひょうえ)に着目しておきたい。彼は日清戦争に先立つ明治26年にも、海軍の上層部を占めていた人物を大量に整理している。維新の功績でその職にあったというだけの使い物にならない者の排除である。そして日露戦争にあっては、艦隊を揃え、司令長官に東郷平八郎を起用する人事を断行した。それだけの大仕事をするには当然のように抵抗が起こるが、それを沈めたのが西郷従道。この2人のやり方、組織の建て直しということでは大変に興味深いです。
 司馬は、随所で彼特有の日本人論を展開しますが、この巻では次の箇所が目を引く。

日本人はフランス人ときわめて似ている点は、対外的な華やかさをこのむ民族であることであり、たとえ浮華な外交であっても勝ちがたい勢力に対して外交上の離れわざを演じて大見得を切るとか、ときには戦争手段により勝ちがたい敵にいどんで国威を発揚するとかをこのんだ。とくに、いつの時代でも在野世論がそれをこのみ、政権担当者はそれをおさえ、つねに対外問題においては、慎重派の当局の方針と急進派の野の世論とが真っ二つにわかれてきた。(69-70頁)

戦争を回避しようとする伊藤博文と、彼を突き上げる民衆との関係についての部分です。うなずくところはあるのですが、ちょっと話を広げすぎているきらいがなきにしもあらず。