人びとのかたち

 後悔はしないことを心掛けているのだけれど、今度ばかりは悔しかった。その原因は塩野七生人びとのかたち」(1995-97年、ISBN:4101181101)。
 著者は、地中海史についての力作を次々に発表しておられる小説家。といっても、そのスケールの大きさに恐れを為してしまい、いつかは読もうと後回しにしていたので、私が女史の著作を手に取るのは初めて。
 集められているのは、雑誌『フォーサイト』に連載された映画エッセイ。登場する作品数、154本。もっとも、題名を挙げただけというのもあるから、主題として取り扱っているのは約50作。しかし、そのうち観たことがあったのは、5本。名画と呼ばれるものを観ていなかったという自覚はありましたが、これでは教養に欠けると言われても致し方ないレヴェルだなぁ。
 塩野氏は、歴史を通して人間の立ち居振る舞いを知り尽くし、数々の創作活動をこなしてきている。その作家が、配役の妙味、監督の狙い、セリフにこめられた感情を解説してくれる。作り手の視点からの指摘が面白い。
 ここに挙げられた名画を観てから、死を迎えたいもの。

人びとのかたち (新潮文庫)