松下幸之助

 松下電器創業者の本を2冊読んでみた。「経営の価値 人生の妙味」(ISBN:456956092X)は、1963(昭和38)年に出版された講演集。「わが経営を語る」(ISBN:4569562701)は、1946(昭和21)年から1964(昭和39)年にかけて社内で行われた訓辞を集めたもの。
 さて、これをどう捉えるか――。松下幸之助氏は成功者である。その実績を背景にした肉声は、価値があろう。しかし、その価値は不変なのだろうか……
 司馬遼太郎の「アメリカ素描」の中に、こんなくだりがあった。アメリカ人に、孔子の『論語』を読ませたらどういうことになるだろう、というもの。返ってきた答は「インディアンの酋長のハナシみたいだ」というものだったという(137頁)。試しに、司馬による訳を引いてみよう。

お前たち、教わったことは、あとで復習するんだよ。あれは楽しいことなんだ。
友だちっていいもんだよ。とくにかれらが遠くからやってきてくれるときはね。これほどうれしいことはないよ。

むぅ〜 これを孔子の言葉という予備知識なしに聞かされた時、それで感服するのは、よほどのお人好しだろう。私なら、老人の繰り言と受け流す。
 つまり、松下幸之助の言葉は、信念から出でた格言である。しかし、そこには論理性や合理性が無い。高度経済成長期の日本を巧みに観察し、時勢に忠実であったことは疑いようがない。それが時代と国境を越えられるのだろうかというのが、私の疑問。少なくとも、2004年のアジアでは未だ有効性はありそうだけれど。