Pendletones

 宇佐美渉ゆずはらとしゆき『ペンデルトーンズ』を読む。かなこ(発育不全ひねくれ眼鏡っ娘)のもとに、ハヤタ(犬耳メイド青年)がやってくる。ハヤタは犯罪組織の首領によって育てられたため、大量殺戮を繰り広げたにも関わらず罪の意識というものが欠落していたのだった。そこで、情緒回復プログラムの一環として地球に送り込まれた――
 この筋立てで展開するのが上巻。ここに、処刑人ベルフィスと従者アルフォートを加わる下巻で大混乱が生じている。用意しておいた「設定」に作者が押しつぶされてしまった、という感が否めない。消化しきれなかった設定を長大な地の文として読ませていることは、ストーリーを収束させるためにやむを得ないものだとしても褒められたものではない。このページ数で主要登場人物が6人では、動かしきれなくなって当然とも言える。加えて、うち5人が地球外生物となると、人間界の常識が通用しない。しかも、その中には宇宙人の世界観でも奇怪な「魔女」やら「魔法」やらが登場すると来ている。二段階に用意された隔絶を埋めるための「設定」を披露することに中盤が費やされ、ストーリー展開を圧迫してしまっている。
 つまるところ、太郎字(首領)の持つ能力を出してしまうと何でもアリ*1 なので、どんな展開でも自由自在。逆にいえば、不可解な話になる根本的な原因でもある。いろいろなエッセンスを放り込んでいるうちに、土台になるスポンジ(かなこ×ハヤタ)の味がしなくなっちゃったような。
 結末に持ち込んだという力量は認める*2。けれど、展開の上手さという点では残念ながら評価できない。

*1:生体組織から銃を生成してみたり、魂を情報として保存・移転したり……

*2:ちなみに、宇佐美渉の著作は1冊目の『少女通信』(ISBN:4877341943)からすべて買い揃えてある。かなり嫌いじゃない。