大学院はてな :: 介護事故

 社会保障法研究会にて判例報告。題は、「介護事故の損害賠償と過失相殺」。素材として、福岡地裁・平成15年8月27日判決(判例時報1843号133頁)と、福岡地裁白河支部・平成15年6月3日判決(判例時報1838号116頁)を取り上げる。高齢者に対して介護サービスを提供していた際に発生した転倒事故につき、過失相殺の可否を論じた。
http://sowhat.magical.gr.jp/thesis/20050219.pdf
 2件とも施設の設備面に問題があったといえる事案であり、民法717条(土地の工作物の設置または保存の瑕疵)による請求は認められるものと思われるというのが報告者の立場。しかしながら、和室の入口にある段差は通常の家屋にも見られる構造であり、必ずしも危険とは限らないとの意見もあった。
 相当因果関係を肯定したあとに生じる過失相殺の議論では、95歳の高齢者であれば転倒して負傷するのは日常的に起こりうる危険であり、それが「たまたま」施設内で発生した場合について高額(360〜470万円)の損害賠償を負わせるのは酷ではないかとの反論が強かった。
 転倒事故を防ぐことを最優先にしてしまうと、「抑制」と称して老人を縛り付けて動けなくしてしまうのが最も好ましいということになってしまう。体を動かすことが運動能力を維持・向上させるために必要であるから、骨折程度の軽いケガについては当然に生じるリスクとして、施設側には危険を負担させないとするのが解決策の1つだろうか。あるいは保険制度を充実させることで、無過失責任として発生してしまった事故は金銭的に賠償することにしてしまうのも手であろう。