もっけ

 熊倉隆敏(くまくら・たかとし)『もっけ』の1〜4巻を読む。
もっけ(勿怪) 1 アフタヌーンKC もっけ(2) (アフタヌーンKC) もっけ(3) (アフタヌーンKC) もっけ(4) (アフタヌーンKC)
 これは面白い。
 巫覡(ふげき)*1の家系に生まれた姉妹が主人公。妹・瑞生(みずき)は憑かれやすい憑坐(よりまし)。対して、姉・静流(しずる)は見えないものが視えてしまう見鬼(けんき)。そして彼女らが身を寄せている祖父は、農業を営む傍ら拝み屋*2をしている。
 それぞれの要素に分解してしまうと、割と良くあるモチーフです。妖怪を「お題」にして緻密に物語を組み立てていくのは、いやが上にも京極夏彦を想起させます。魂が見えてしまうといえば、紺野キタ知る辺の道*3田中メカお迎えです。*4など。巫女さん萌えな要素が強いけれど、森見明日『結びの杜』*5も。悪意ある存在として「あやかし」を登場させるなら、高田裕三九十九眠るしずめ』『幻蔵人形鬼話』。何気なくそこにある不可思議の描写なら、わかつきめぐみ黄昏時鼎談*6や、『ご近所の博物誌*7も近い空気を持っている。
 さらに。この絵柄は見たことがある。眼差しや脱力感はあずまきよひこ、表情やコマ配置は天原ふおんに似通っている。
 でも、分析なんかど〜でもよくなるくらい面白い。何より、物語の作り方がいい。
 各話ごとに1つの「勿怪もっけ」を登場させ、それをストーリーとしっかり絡めてくる。《妖怪》や《もののけ》を物語の下敷きにすることで、日本の民間伝承を織り込むことが容易になる。それだけに止まらない。熊倉隆敏は、フォークロアが土壌とする季節感、農村社会、家族関係、祖先崇拝、自然への畏怖――といった諸々のものと、それらが内包する切なさや愛しさといった感情を『もっけ』という作品に取り込んでいるのだ。情緒と情景に溢れた秀作。
 難を言えば、もう少しタメを効かせて盛り上げる演出にするか、あるいは、敢えて起伏をつくらないか*8にすると、漫画の構成としては特徴が出てくるように思う。とはいえ、既に第4巻から微妙な作風の変化があるように感じるのだけれど……。この先、熊倉隆敏が何を目指すのか、とても楽しみです。


▼ おとなりレビュー

生活に根付いた風習や現象から作られた妖怪(物の怪という言葉はまさにぴったりだ)というもののルーツを感じ取ることができる稀有な作品です
http://d.hatena.ne.jp/G_CAR_STK/20050327#p1

伝承のなかの妖怪を忠実に写し、また、生き生きとした明るさを持つ点で、非常に好ましく感じる
http://d.hatena.ne.jp/taron/20050328#p1

日常の我々の視界の隅に、辛うじてとらえられるようなモノ、という感覚で異界のモノを描いてきた作品だが、そのやり方がまた研ぎ澄まされたような気がする。
http://d.hatena.ne.jp/goito-mineral/20050324#1111672897伊藤剛氏)

*1:神と人との感応を媒介する者。神に仕えて人の吉兆を予言する者。女を巫、男を覡という。〔広辞苑より〕

*2:除祓師、お祓い師。

*3:ISBN:4344804821

*4:ISBN:4592177460, ISBN:4592177630, ISBN:4592170202, ISBN:4592170210, ISBN:4592170229

*5:ISBN:4785921099, ISBN:4785922133

*6:ISBN:4592131509, ISBN:4592882865

*7:ISBN:4592131568

*8:女子高生の幽霊とまったりらぶらぶな日常を過ごす、鬼魔あづさ夜の燈火と日向のにおい』なんていうものもある。