大学院はてな :: 科学技術ナビゲーター

 来る10月から、北海道大学で「科学技術コミュニケーター養成ユニット」が始動します*1。そこでスタッフを公募しているのですが、私も応募してみることにしました。今日、ユニットの主任教授を訪問し、詳しい話を聞いてきたところ。
http://fox44.hucc.hokudai.ac.jp/~scicom/
 私は労働法が専攻です。でも、法律学スペシャリストというには能力が足りないことを自覚している。大学院に10年間も留まっているなんて、二流もいいところです。まぁ、その分いろんなことに足を突っ込み、ゼネラリストになることで補おうとはしてきました。最近ではマンガ評論に精を出していたわけですが、さすがに職業として評論家をやっていくのは無理であることを確認(笑)
 今回、学際分野での人材募集をみているうちに、「私に演習を担当させてくれたら、少しは面白いことができるんじゃないだろうか」と考えた次第。思いついたアイデアは、書評を使ったコミュニケーションの演習。元ネタは、5月12日付けで表明しています*2。これを科学技術向けにアレンジして、企画書を書いてみました。具体的には、

  • (1) 受講生は、最近刊行された新書(講談社ブルーバックスなど)を読み、800字程度の書評を書く。
  • (2) それを他の受講生が読み、内容の妥当性(真偽)を検討し、コメントを寄せる。
  • (3) ゼミの場では、執筆者がオーラル・プレゼンテーションを行う
  • (4) そのうえでコーディネーター(=私)が、面白さ&わかりやすさという観点から助言する

というもの。
 なぜ新書を使うかというと、今日において《知》の広報担当官を務めているのは新書だ、という認識があるからです。しかし、自然科学系の新書について関心が向けられることは驚くほど少ない。身近な例で言うと、「はてな年間100冊読書クラブ」の読書記録に理科系の書物が登場することは珍しい。ましてや、元の本を読んでみたいと思わせてくれるような書評に出会うことなど滅多にない。
http://book100.g.hatena.ne.jp/calendar
 どんなに素晴らしい知識を得たとしても、発見した《知》の面白さを次の人に伝える努力を怠ってはならない。発見者が自分自身で伝えられないというなら、代わって伝達する役目を担う人が必要だ――私は、「科学技術コミュニケーター」の存在意義を、このように把握しました。社会科学を出自に持つ私は、専門的な間違いを正すことはできません。でも、畑違いであることを逆に利用すれば、どこに発見者と受益者を隔てるギャップがあるのかを指摘することはできるのではないか。
 自然科学は面白いです。でも、どこにどのような《知》があるのか、良く見えない。そこで、受講生に《知》の見取り図を作ってもらってはどうか、と思ったわけです。私のイメージするところは、科学技術の案内人(ナビゲーター)育成。どっちにしても Netscape だ。いっそのこと、研究者のことを科学技術コンポーザーと呼んでみましょうか(笑)
 受講生同士が連携して互いに高めあうのがゼミナールの醍醐味ですが、本気で取り掛かると時間がかかってしまう。そこで、準備作業の部分にグループウェアを導入することにより、時間的・場所的制約を軽減するというアイデアも織り込んでみました。ヴァーチャル授業は授業の進行状況(ちゃんと資料に目を通しているのか)を把握しづらいという難点があるのですが、そこはオーラル・プレゼンテーションの場で確かめつつ進めてみようと思う。
 また、成果を広く社会に還元するということも忘れてはならない。課題として提出された書評を読んだ人が、面白そうな学問領域があると気づいてくれれば、科学技術ナビゲーターの役割を果たしたことにもなる。
 応募前から手の内をさらけ出していますけれど、もし他の誰かがもっと上手くやってくれるなら、私が無理してやることはないのです。このアイデアを面白いと思ってくださるならば、役立てて欲しい。


 追記
 書き忘れていたのですけれど、面白いエピソードがありました。
 もし採用された場合、現在の身分(学籍)をどうするのか、という話をしていたのです。そこで私が「博士課程を単位取得退学することになりますね」と(当然のことの確認のつもりで)答えたら――いろいろ聞かれました。法学部だったら、言わずもがなのことなのに(汗)。やっぱり文系と理系って、ぜんぜん世界観が違うよ……。

*1:同種のものが、東京大学では「科学技術インタープリター養成プログラム」、早稲田大学では「科学技術ジャーナリスト養成プログラム」として開かれる模様。

*2:http://d.hatena.ne.jp/genesis/20050512/p1