To Heart - Remember my memories

 昨晩,寝しなに高雄右京(たかお・うきょう)『To Heart Remember my memories』(ISBN:4840231370)を読む。Leafビジュアルノベル第三作『To Heart』の1年後を描いたアニメ『To Heart 〜Remember my memories〜』のコミカライズ作品。
 これに関しては kaien さんのところでアニメ版が話題になったとき,例によってコメントを送りつけている(いつもお騒がせしております)。

 原作の魅力は、あえて大袈裟なドラマを排して、徹底的に日常の楽しさと哀しさに焦点を絞ったところにある。
 「恋愛ゲーム」とひと言でいえばそうだけれど、むしろその本質は、ささやかで他愛ないエピソードの積み重ねからひとりひとりのキャラクターを魅力的に描き出すその丁寧さにあったはずだ。
http://d.hatena.ne.jp/./kaien/20050715/p2

 ここで指摘されているように,原作*1は関係性の負の側面を削ぎ落とすことにより,「心地よい楽園」を現出させようと試みた作品。
 それがねぇ―― 主人公・浩之をめぐるマルチ(HMX-12)との確執で,神岸あかりが泣き叫び,涙を流し,わめき散らす。そこに雅史と志保の告白も加わって五角関係まで。キャラクターの性格が,ことごとく悪くなっている。強気で攻撃的な姫川琴音なんて見たくなかったよ……。

 アニメのシナリオを読んで,ああ,前作ではあえて描かなかった所に踏み込むんだな,とわかり,僕も挑戦させてもらいました。
なかがき(71頁)より引用

 あえて目を背けることで成り立たせていた原作の価値を,あえて否定し前面化させる。その心意気は汲むが,本作についてはまったく評価できない。取り組むならば,新たな場において新たな主題として提示するのが望ましかったように思う*2
 人気作の続きものを制作することは批判しない。しかし,神髄を穢し,魂を劣化させたことは非難に値する。楽園の住人たちを,愛憎渦巻く俗悪な世間へと追いやった罪。そんなわけで,私は〈Remember my memories〉という企画を好意的に見ることができない。原理主義的な立場からすると,あまりにも辛すぎる。

 高橋龍也 「恋愛っていうのは、実は書いてもあんまりおもしろくないんですよ。若い恋愛を書けば、男の立場から言うとイコール性欲。理由なんてないんです。それだけで終わっちゃうんで、語るドラマもなにもないんです。もしくは相手を束縛したいとか、独占欲とか、そういう方向で書くしかないんですけど。そういうのは書いてもしょうがないと思ったんです。だから『To Heart』でやりたかったのは「一緒にいて楽しい」ということなんです。性欲を抜きにしても、一緒にいて楽しい女の子を。」
http://www.tinami.com/x/interview/04/page5.html

*1:1999年,ASIN:B00008I4QF

*2:傷つける痛みをテーマとした作品として,第四作『WHITE ALBUM』(1998年,ASIN:B00009WAYZ)の存在意義がある。