大学院はてな :: ほっとけない 連合の見解

■ 労働契約法制に対する連合の見解
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20050913#seemore

 話題になっているのは,連合の出した談話*1。義理はないのですが,連合側を弁護してみることにします。たまたま,今日はこのあたりの資料を漁っていたので披露。
 草野氏の述べているのは,「中間取りまとめ」に対する意見書(2005年6月8日並びに6月20日発表,労働法律旬報1602号掲載)*2の要約です。わかりにくいですね。もっと共感を得られるような表現にすればいいのに――。

[2]解雇無効の判決を勝ち取った労働者が職場復帰できなくなる、解雇の金銭解決制度を導入しようしている。

 解雇の金銭解決について。連合が懸念しているのは,使用者が主導して金銭解決へと持ち込むことだと思われます。和解で現に行われており,近く導入される労働審判制度で行われることになるであろう金銭解決については否定していません。*3

[3]雇用継続型契約変更制度の創設は、労働者に対して「労働条件の変更か解雇か」を迫ることになる。

 連合は,「労働条件の変更には異議をとどめながら、就労を継続しつつその合理性を争う」という態度を取ることは事実上できないだろう,という見方を取っています。ここで論拠に挙げているのはドイツにおける〈変更解約告知制度〉の運用実態。すなわち,労働者が就労を継続しつつ条件変更について争おうとしても,使用者は解雇をもって臨むから,想定通りには機能しないだろうと疑念を抱いているものです*4

[4]ホワイトカラー・エグゼンプションの導入は、労働時間の原則を骨抜きにし、長時間労働を助長しかねない。

 連合は,労働者保護(より厳格な労働時間規制)こそが先決だと訴えています。労働時間管理の対象から除外することにより,「不払い残業」の合法化,長時間労働の激化,過労死・過労自殺の増大が起こることを危惧しています。私の知る限り日本で最も積極的な導入論者である roumuya さん*5にとっては,反論になってないと思われるかと思いますけれど*6
 この点,島田陽一教授(労働法)は,今野浩一郎教授(人的資源論)による「仕事手順の裁量性」と「仕事量の裁量性」を用いた整理を参照しながら,検討課題を論じておられます。今後の議論において参考になるでしょう*7

[1]労働組合とは本質的に異なる労使委員会に、労働条件の決定・変更の協議や就業規則の変更の合理性判断など重要な機能を担わせようとしている。

 これは触れないでおきます*8
 代わりに,この件について意見を表明している弁護士組織を紹介しておきます。

*1:http://www.jtuc-rengo.or.jp/new/iken/danwa/2005/20050913.html

*2:http://www.jtuc-rengo.or.jp/new/kangaeru/koyou/r_keiyaku_jikan/index.html

*3:roumuya さんは「果たして解雇無効を勝ち取った労働者がすべて職場復帰を希望しているのかどうかが疑問」と述べておられます。しかし,この場合は,《解雇無効を勝ち取った労働者は,不払いであった賃金を受け取った後で自主的に退職する》という理論構成による現在の解決法でも処理できるでしょう。連合の主張は,現在は労働者がもっている「雇用の継続(地位確認)か金銭解決(損害賠償)かを選ぶ主導権」を使用者に明け渡すべきではない,というものでしょう。

*4:私見。そこまで疑ってかかるのはどうかとも思うのですが,不安があるのは確かです。配置転換の場合,異議を留めつつ任地に赴くという戦術を労働者が採る場合がありますが,訴訟遂行中は不安定な状態に置かれてしまいます。結局のところ,使用者の方針(労働条件の不利益変更)に従わない労働者は実力で放逐されてしまうのではないか,と怖れるのも理由のないことではありません。集団的労使関係法の出発点に立ち戻ると,労働者は交渉能力が対等ではないので,個人のまま使用者に立ち向かわせることは避けるように制度設計すべきだと考えます。何らかの身分保障制度やバックアップ体制を組んでおかないと。

*5:『現場からみた労基法改正』 日本労働研究雑誌(JIL)2004年1月号 (→資料

*6:私見。平成13年4月6日・基発339号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」すら遵守されていない状況からすると,労働時間規制を緩めることには大いに不安を感じます。

*7:『ホワイトカラーの労働時間制度のあり方』 日本労働研究雑誌(JIL)2003年10月号 (→資料

*8:事情は察してください。私は,集団的労使関係法をテーマにしつつ,従業員代表制度にアプローチするということをしているので……。