大学院はてな :: 労働時間管理者の過労死

 研究会にて,中の島(ホテル料理長)事件和歌山地裁・平成17年4月12日判決)*1の検討。
 ホテルの料理長Aが会議中にくも膜下出血を発症し,その後死亡したことにつき,遺族らがAの死亡は過重労働によるものであるとして安全配慮義務違反および不法行為に基づき,遺失利益や慰謝料を請求した事案。
 請求を一部認容しているのだが,遺失利益および慰謝料を3割減額する理由としてあげられた「Aの寄与要因」に気になる説示が。

 Aは,調理課長として,自らの労働時間を自ら管理する立場にあり,調理課員への仕事の分担を決めることができる立場にあったところ,他社への配慮から,あるいは料理人としての職業意識から,業務と無関係とは言えないものの,必ずしも業務上要求されていない仕事まで自ら背負い込んでしまった面も否定できない。

 本件においては,自宅において新しい料理の献立を考えていた時間は業務を遂行していたものとした。その一方で,魚市場まで食材を選定したり料理に使う敷葉を取りに出かけていた時間は業務を遂行していたものとは言えないとしている。というのも,「意地と誇りをかけた亡Aの自主的な判断に基づくものであったと推認される。被告会社において,亡Aがかかる行動を行っていることを把握することは極めて困難であったと認められる。」から,とする。
 本件にあっては,亡Aが高い地位(部門のトップ)にあったので,損害の公平な分担という観点から若干の減額を行うのも致し方ないかとも思う。ただ,ホワイトカラー・エグゼンプションの導入に伴って,もっと低い職位の労働者にまで損益相殺が行われるようになるのではないかと危惧している。健康を害してまで働いてしまう労働者が出てこないようなシステムを用意しなくてはなりません。

*1:労働判例896号28頁