大学院はてな :: 社会保険料と租税法律主義

 研究会にて,杉尾訴訟最大判・平成18年3月1日・判例集未登載)の検討。国民健康保険料が賦課されたところ,減免申請が認められなかったため,処分の取消を請求した事案。上告審では憲法84条が論点となっている。
 ちなみに,「社会保険料」は「税金」と本質的に違いを有している。医療保険についていえば,「保険給付に要した支出額をベースに,そこから患者の自己負担金や国庫負担金などを差し引いた額を保険料として徴収するというところにある」*1。すなわち,(1)実際に使われた医療費(支出)が確定してからでないと,徴収すべき保険料が定まらず,(2)医療費と保険料との対価関係は切断されていない,というところに社会保険システムの特徴がある。これが,税における「課税要件明確主義」とは異なるところ。最高裁が,本件に関して「憲法84条の趣旨に反するということもできない」との結論に至った理由には,社会保険の特質が反映されているものと思われる。
 ただ,結論は良しとしても,

 もっとも,憲法84条は,課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきことを規定するものであり,直接的には,租税について法律による規律の在り方を定めるものであるが,同条は,国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したものというべきである。
 したがって,国,地方公共団体等が賦課徴収する租税以外の公課であっても,その性質に応じて,法律又は法律の範囲内で制定された条例によって適正な規律がされるべきものと解すべきであり,憲法84条に規定する租税ではないという理由だけから,そのすべてが当然に同条に現れた上記のような法原則のらち外にあると判断することは相当ではない。
 そして,租税以外の公課であっても,賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては,憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであるが,その場合であっても,租税以外の公課は,租税とその性質が共通する点や異なる点があり,また,賦課徴収の目的に応じて多種多様であるから,賦課要件が法律又は条例にどの程度明確に定められるべきかなどその規律の在り方については,当該公課の性質,賦課徴収の目的,その強制の度合い等を総合考慮して判断すべきものである。

このように「憲法××条の趣旨」というのは,解釈論としてはどうだろうね――というのが本日の話題でした。

*1:倉田聡「社会保険財政の法理論」北海学園大学『法学研究』35巻1号25頁より引用。