大学院はてな :: 事業廃止を理由とする全員解雇

 研究会にて,三陸ハーネス事件(仙台地決・平成17年12月15日・労働経済判例速報1924号14頁)の検討。
 被告Y社は,自動車部品の製造業。原告Xら18名は,Yの従業員であった者。
 1999年10月に日産自動車は「リバイバルプラン」を発表した。Y社は,日産に部品を供給していたS電装の下請であるK社のさらに下請けであったことから,間接的ながらリバイバルプランの影響を受けることになる。元請けであるK社は,Yとの契約を解除することを決定。Y社にとってK社は唯一の取引先であり,株式を100%所有する親会社でもあった。K社の決定によりY社の工場は閉鎖されることになり,これを受けて従業員全員が解雇されたというのが本件事案。
 地位保全と賃金仮払いが請求されたが,裁判所は請求を棄却した。
 この事件では,非常に興味深い説示がなされている。事業廃止の場合には,いわゆる「整理解雇の四要件」はそのまま適用することができないとして,独自に「相関的二要件」とでも呼ぶべき枠組みを打ち出している。

 およそ使用者がその事業を廃止するか否かは,営業活動の自由(憲法22条1項)として,使用者がこれを自由に決定できる権利を有するものというべきである。しかしながら,事業の廃止によって労働者を解雇する場合に当該解雇が有効であるか否かという点はこれとは別問題であると考えられる。すなわち、事業の廃止が自由であるからといって労働者の解雇もまた自由であるということはできず,「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、権利を濫用したものとして無効であると判断すべきである(労働基準法18条の2)。

 事業廃止により全従業員を解雇する場合には,上記の四事項を基礎として解雇の有効性を判断するのではなく,〔1〕使用者がその事業を廃止することが合理的でやむを得ない措置とはいえず,又は〔2〕労働組合又は労働者に対して解雇の必要性・合理性について納得を得るための説明等を行う努力を果たしたか,解雇に当たって労働者に再就職等の準備を行うだけの時間的余裕を与えたか,予想される労働者の収入減に対し経済的な手当を行うなどその生活維持に対して配慮する措置をとったか,他社への就職を希望する労働者に対しその就職活動を援助する措置をとったか,等の諸点に照らして解雇の手続が妥当であったといえない場合には、当該解雇は解雇権の濫用として無効であると解するべきである。そして,全ての事業を廃止することにより全従業員を解雇する場合の解雇の有効性の判断に当たっては,上記〔1〕及び〔2〕の双方を総合的に考慮すべきであり,例えば、使用者が倒産しあるいは倒産の危機に瀕しているなど事業廃止の必要性が極めて高い場合には解雇手続の妥当性についてはほとんど問題とならないと考えられるが,単に将来予測される収益逓減に伴う損失の発生を防止するといった経営戦略上の必要から事業を廃止する場合など事業廃止の必要性が比較的低い場合にはその分解雇手続の妥当性が解雇の有効性を判断する上で大きな比重を占めるものと考えられる。

 このように相関的に把握すべきであるかどうかはともかく,事業廃止の場合には,整理解雇法理とは別の法理で処理されるべきだという指摘は正鵠を射たものであろう。引き続き検討が必要なところ。
 また,会社法の院生からは,本件では事業廃止に係る取締役決議を欠いているため,株主総会決議によって会社解散が決定されるまでの間(2005年9月30日〜11月4日までの期間)については,そもそも解雇を無効だと解しうる余地があることの指摘を受ける。こうした手続的側面*1がおざなりになっている会社は多いので,意外と有効な武器になりそう。

*1:商法260条2項4号(改正前)では,「支店其ノ他ノ重要ナル組織ノ設置,変更及廃止」については取締役会での決議を必要としている。