大学院はてな :: 人勧に準拠した賃金引き下げ

 研究会にて社会福祉法人八雲会事件(函館地判・平成18年3月24日・労働判例913号13頁)の検討。
 被告Yは民営の事業所であるが,平成10年度までは職員の給与は国家公務員に準拠し,人事院勧告に沿って増額改定されていた。ところが平成13〜15年度の人勧ではマイナス改定となったことを受け期末手当を減額するなどした事案。
 裁判所は,次のように述べて主たる請求を斥けた。

 「これまで国家公務員に準じて増額改定の利益を享受してきた被告の職員が,官民格差の是正の趣旨でなされた人事院勧告に準拠した平成13年度改定ないし平成15年度改定による賃金減額の不利益を甘受することについては,それ自体十分な合理性を有するものというべきであり,上記各改定の内容には,社会的な相当性があるというべきである。」

 就業規則の不利益変更については幾つかの最高裁判例があり,「不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合」に限って認められるという法理が形成されている。ところが,本件では必要性や合理性の判断が極めて緩い。人勧準拠なのだから――というのが,その判断の根拠になっていると思われる。しかし,賃金の上昇について適用されていたルールを賃下げの場合にも同様に適用する,というのは問題がある。使用者に独自の賃金決定力が無いために「人勧準拠」で済ませてきたツケを,既得権を奪う形で労働者の責めに帰すべきではない。最も減額幅の大きかった者の不利益について「22万2751円の減額にすぎ」ないと言ってのける裁判所には猛省を促したい。
 加えて,労使交渉の経緯につき「組合との間の労使交渉が十分なものであったとはいい難い」と認めつつも,請求を認めていない判断には大いに疑問がある。