大学院はてな :: 組合脱退と会社退職の《きょうはく》

 弁護士さんからJR東労組浦和電車区)事件東京地裁判決・平成19年8月31日・判例集未登載)の判決文をいただいて読んだのですが――
 まず最初に確認しておくと,四半世紀前にあった分割民営化のために労働組合法関連では多数の事例を提供してくれている某社が舞台であるものの,この事件に使用者は絡んでいないようです。それ故に,なぜ事件になったのかの構図が不可解だったりするのですが……
 訴えられたのは運転士7名で,会社内で最大多数を占めるE労組に所属していた(当該事業場では3/4近い勢力)。この事業場には他に少数派組合であるK労組(1/4の勢力)もあるが,今回登場するのは弱小勢力のGユニオン。
 Gユニオンでは組織拡大のためキャンプをするなどしてシンパを募っていたところ,H労組に所属していたYなる人物(当時29歳)がこれに参加した。このことがバレでH労組のメンバーから反感を買ったため,平成13年2月28日にYはH労組を脱退,同年7月31日には会社も辞めている。
 もし,組合集会でつるし上げを食らったり,職場内で疎外されたりということがあったのであれば,精神損害に対する慰謝を求めて訴訟を起こしたのだと言われても理解できます。が,今回は労働刑事事件。しかも7名全員に対し,懲役1〜2年,執行猶予3〜4年の有罪判決が出されています。
 罪状は,刑法223条の脅迫罪。だとすれば《害悪の告知》のあったことが構成要件となるわけですが,判決文を読み込んでもそれが見当たりません。「ずいぶんふざけたことしてくれるな」「やめちまえ,バカヤロー」などの罵詈雑言は見受けられますが,H労組のメンバーはYの行動によって憤っていたわけですから,売り言葉に対する買い言葉としてはテンプレートのようなもの。これが民事事件として,組合脱退の《強迫》があった(民法96条)という主張であれば分からなくもないですが……。
 しかも,組合脱退問題から会社退職まで5か月の開きがあります。この間,H労組からの接触は殆どありません。退職する直接の契機となったのは,6月末に被告人の一人とYがトイレで遭遇したときに,

「お前が乗務するとまた組織が混乱するだろう。いい加減身の振り方を真剣に考えろ。お前は病気にまでなったんだろう。」

という発言であると裁判所は認定しているのですが,これは孤立状況に陥った同僚を心配しての言動ととることもできるものであって,脅迫であると評価することに躊躇します。
 暴力が行使されているわけでないことはもとより,生命・身体に危害を与えられることを予感させる言動もありません。裁判所が認定した事実関係を前提とするにしても,これで《脅迫罪》が成立するとした司法判断には疑問を呈したいところです。
 訴訟上の問題としては,被告人らが344日間に渡って勾留されていました。標準的な21日間の取り調べについても問題があると考えますが,この異常なまでに長期な拘留は問題視すべきところでしょう。
 現在,控訴審で審理中とのことですが,どのような判断が示されるか注視したいところです。