労働法判例 :: 労働組合法上の《労働者》

 研究会にて,国・中労委〔INAXメンテナンス〕事件(東京高裁判決・平成21年9月16日判決・労働判例989号12頁)を検討しました。
 争っているのは,とある住宅設備機器I社から修理補修業務の委託外注を受けているエンジニア。修理を求める顧客のところへ出かけるときにはI社の制服を着用していく等しています。エンジニアらの加盟する一般労組がI社に対して団体交渉を申し入れたところ,I社が申入れを拒絶したという事案。大阪府労働委員会はI社の行為が労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するとして救済命令を発しました。中央労働委員会の再審査でも初審の判断は維持されています。これが取消訴訟にかかりましたが,第一審(東京地裁判決・平成21年4月22日・労働判例982号17頁)も労働委員会の判断を支持。
 ところが,控訴審(裁判長:藤村啓)では原判決を取消しました。その理由というのは,エンジニアらは労働組合法上の労働者ではないから――というものでした。

 「同法における労働者に該当するか否かは,法的な使用従属関係を基礎付ける諸要素,すなわち労務提供者に業務の依頼に対する諾否の自由があるか,労務提供者が時間的・場所的拘束を受けているか,労務提供者が業務遂行について具体的指揮監督を受けているか,報酬が業務の対価として支払われているかなどの有無・程度を総合考慮して判断するのが相当というべきである。

 え〜
 ものすごく変な判示なのです。どういうことかというと,労働組合法3条では「この法律で《労働者》とは,職業の種類を問わず,賃金,給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。」と定義しています。この労組法上の《労働者》には,就職活動をしている最中の失業者であっても含まれると理解されています(労働基準法9条にいう《労働者》よりも広い概念です)。裁判官は,条文だけを見て考えてしまうという過ちをしでかしてしまったのかなぁ……。参加者の発言には,従来は判断の入口である《労働者性》を認めた後の実体判断である《使用者性》において判断していた要素を前の方に持ってきてしまったのだろうか,という指摘もありました。