リンダ・グラットン『ワーク・シフト』

 リンダ・グラットン(Lynda Gratton)『ワーク・シフト:孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉』を読了。
 働き方の未来を形作る5つの要因〔第1部〕については特に異論はない。しかしながら,そこから導き出される働き方の3つの〈シフト〉〔第4部〕になると苦々しく読んだ。著者がロンドン大学ビジネススクール教員であるせいか,アングロサクソン的エリートにしか適用できないのではないかという節が強い。上位2%に相当する人材については著者の指針に従って生きてもらうとしよう。では,残りの98%にあたる大衆はどのような働き方を描くのか? さらに,格差の拡大を是正する政治の役割というものが一顧だにされていないのも本書の難点だろうか。
ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉

スペインで『現代日本法入門』が出版されtました

 日本大学で開催された日本スペイン法研究会に参加してきました。
 研究会では,2010年に『現代スペイン法入門』(ISBN:4782305079)という本を出版しています。これは,スペインの法制度について現地の執筆者に記述してもらい,それを日本の研究者が注釈を付けつつ日本語で紹介するというものでした。
 次は日本の研究者が日本の法制度について原稿を書き,それをスペイン語に訳してスペインで出版しよう――という企画が立ち上がったのは3年前だったでしょうか。色々とあったのですが,このほどようやく『Introduccion al Derecho Japonés Actual(現代日本法入門)』(ISBN:9788490149126)という本になりました。
http://www.derecho-hispanico.net/libros.html
 私もコラムを2つほど書いております(「年金制度」と「パートタイム労働法」についてです)。10月に出版されたらしい,という噂は聞いていたものの,ようやく実物を手に取ることができました。
 95ユーロと高い本ですが,約750頁ありますのでお値段に見合うだけの情報が詰まっております。日本国内では入手困難だと思いますけれども,スペイン語圏に法律を生業とされるお知り合いがおられたらご紹介くださいませ。
http://www.amazon.es/dp/8490149127/

米澤嘉博記念図書館『相田裕「GUNSLINGER GIRL」 改造と再生の10年展』

 偶々東京へ来る予定のあった日に,いずみの(id:izumino)さんのトークイベント「変わりゆく『GUNSLINGER GIRL』の描写を読む」が開催されていたので,仕事の後に拝聴しに行ってきました。
 前半は絵の話をされましたが,成程と思わせる話が次々との連続でした。舞台探訪の視点からいえば,〈鳥瞰構図〉は実際に現地へ行っても取れないことが多いし,そもそも作家本人が自身で用意したものではない資料を基にしていることが多いので興味を持ちにくいところがあり,上からの視点は排除するクセが付いておりました。それが,人物描写の視点からいえば難易度が高いのだという話を聞き,絵を描けない者には持てない着眼点だと感じ入りました。
http://www.meiji.ac.jp/manga/yonezawa_lib/exh-aida_gun.html
 さて,この『ガンスリンガー・ガール』という作品,あまりに思い入れが強すぎて,完結したのにずっと単行本を開けずにおりました(第15巻の特装版を買い逃してしまった悔しさも多分にあり)。今回の展覧会を観に行く前に思い切って読んでみたところ,妙に〈歯〉の描写が多いことが気に掛かりました。例えば,ジャンとダンテの対決シーン,あるいはトリエラの最期を知らされるマリオ・ボッシ。どうにもリアルな〈歯〉は,いわゆる萌え系の絵柄にそぐわない。講演の中でいずみのさんは〈眼〉の描写を描写の変化を物語るものとして話をされていたのですが,もしかして――と思い質問を投げかけてみました。私は男共の醜悪さの表現として捉えていたのですが,いずみのさんからは〈歯〉だと「情念が出過ぎる」と返答いただいた,即ちそこに負の感情を読み取っていたのは興味深いところでした。
 他の方が出された質問で面白かったのは,ヘンリエッタの最期はあれでよかったのか? というもの。これに対するいずみのさんの回答は,ジョゼ&ヘンリエッタの関係性は(リコ&ジャン組との対比において)失敗例でなければならなかったから,でした。……まぁ,仰るとおりダメダメではありますが,あれはあれで美しい終焉だと思えてならないので,どうにも「失敗」とは認識できずにいます(^^; 
 作品の構造についてはペトロニウスさんが素晴らしい考察を手がけておいでです。 

この分析を借りて自己分析すると,終盤においては対等に配分されているはずの3つの描写軸のうち,対幻想の構造を強く読み取ってしまっているせいでしょうね。
 ちなみに,ここまで言っておいてなんですが,トリエラ派です。