からだの見方

 そのまま引き下がるのも釈然としないので、続けて養老孟司「脳の見方」(1988-94年、ISBN:4480029125)を開く。
 よかった。こちらはエッセイ集だ。馬鹿な私でも、かろうじて言葉として読みとれる。
 筆者は、とかく屁理屈をつける。こういうと世間一般では悪口にとられるらしい。だが、私の本業は理屈をこねまわすことであるから、それが屁理屈であろうと理屈になっていればよろしい。黙りこくってしまえば、すなわち廃業。食っていけなくなる。
 養老翁の説諭は、巧の技である。何故哲学めいたことをやるのかと問われれば、講座に研究費がまわってこないので、カネのかからないことをやっているのだと答える。医師ではあるが解剖学者であり、人を生かすのではなく、人が死んだあとに出番がやってくる。そんな師にかかると、葬式は「楽しい」ものだという。故人と生前仲の悪かった人が、そのことを気にして立ち回り、葬儀の雰囲気を作ることがあるとか。解剖の申し出に反発するような人をみて「ははぁ、さては」等と思い当たるなど慧眼である。