The place promised in our early days

 札幌のミニシアター「シアターキノ」で新海誠監督の新作『雲のむこう、約束の場所』を観てきた。
 幕が上がったところで、気づかれないように内心ため息をつく。
 「どうして、こんな作品に仕上がっちゃったのかなぁ……」
 端的に言って、物語としては破綻した作品。前作で評価された対象である「企画から製作までをすべて1人がこなした」という部分が、逆に負の作用をしてしまっている。分断された《雲の向こう》にそびえ立つ塔というイメージから物語を組み立てていったのだろうけれど、それがヒロインに関与するのは何故なのか? とか*1、半径20kmの異相空間は地上だけではなく上空にも及んでいるんじゃないの? とか*2、べつにわざわざ飛行機を自作しなくても移動できるんじゃないの? とか*3、疑問が次々に出てくる。
 断片的な要素を積み重ねて寂寥感を駆り立てるという手法は『ほしのこえ』と同一。こちらでも、なぜ少女が戦闘に出向くの? といったところで疑問があったのだけれど、そういった考証の甘さが今回は全面に出てきてしまっている。架空と現実の混成に失敗しているんだよなぁ。つまり、スパイスとしてほんのちょっぴり加えるべきフィクションの分量が多すぎる。この作品を生かすためなら、現実への歩み寄りを放棄し、世界の謎は謎のままとして触れずにいたとしても悪くなかったように思う。
 映像表現としては、すごくいい。気品がある。でも、物語を練り上げるという能力が、新海誠には決定的に欠けている。これを小説化しても、ちっとも面白くない。もし本作を30分間くらいに切りつめ、セリフ(特に地の文)を取り払ったら、優れたビデオ・クリップになるだろう。たぶん『ヨコハマ買い出し紀行』のように、世界観は所与のものとして扱われ、たおやかな時間と光を心ゆくまで楽しめる作品になると思う。映像作家としてなら、新海誠は一流の人材だ。彼に次回も《物語》のある映画を作らせるなら、アイデアを補正(ブレイン・ストーミング)して高めてくれる演出者(プロデューサー)が必要だろう。
 とにかく、惜しい。
http://www.kumonomukou.com/
http://www2.odn.ne.jp/~ccs50140/新海誠
http://theaterkino.net/シアターキノ

*1:理論を組み立てた人物と血縁関係にあることが関わってくる問題だとは思えない。

*2:地上は荒廃しているのに、接近しても安全なのか。

*3:移動手段としては危険であるし、費用対効果が釣り合わないだろう。