美術手帖 「マンガは芸術(アート)か?」

 『美術手帖』2006年2月号(ISBN:B000E5KJXO)の特集「マンガは芸術(アート)か?――進化するマンガ表現のゆくえ」を開く。
 楠見清*1による巻頭言(の題名)から,早くも困惑させられる。

manga into art マンガがアートになる日」

 ひとまず,特集の題名に沿って「芸術=アート」は疑いを差し挟まないでおこう。そして,美術がハイカルチャーを代表するものであるからして,「美術は芸術の一種である」という包含関係も認めておこう。さらに,一般的にサブカルチャーに位置づけられるであろうマンガに対して“manga is art?”という問いかけをするのもいい。
 しかし,いくらなんでも“manga into art”は……。このようなことを言い出すようなら,〈美術〉はあまりに尊大で傲慢ではないか,とも思ってしまう。まぁ,マンガとアートとが接近の度合いを強めているのは事実だろう(manga come close to art)。しかし本書の分析視座は視野があまりに狭く,そのことに無自覚。
 一通り読み通しましたが,どうやって〈マンガ〉を〈アート〉に回収するか,という切り口ばかりが鮮明に現れています。表紙に村田蓮爾を持ってきて,古屋兎丸弐瓶勉を詳しく取り上げているのが分かりやすい表象。「マンガ史を変える30人」にしても,かなり歪(いびつ)。〈アート〉として解釈が容易なものに〈アート〉の文脈で解説を付けるとこうなりました,というのは分かるのだけれど。
 「BTおすすめマンガガイド」はバランスが取れているが,こちらでは選者にヤマダトモコ女史がクレジットされている。
 何とも遣り切れない思いで閉じた。


▼ 関連

どんな狭域の趣味でも芸術でも、時間が経ち、周囲に浸透、分化することによって、それを指す特定の名前が曖昧でジャンルレスになっていくように、芸術論はあまり意味が無い。
http://d.hatena.ne.jp/natsuo0505/20060126/1138276875 夏沓の行き先

そもそも「芸術」っていう定義が曖昧過ぎて「芸術か否か」っていう議論は非常にやりづらいんだけどね。
http://d.hatena.ne.jp/tetsu23/20060126/1138238882 コトバノツドイ

*1:くすみ・きよし。肩書きは「アートストラテジスト」。