東野圭吾 『容疑者Xの献身』

 昨日,東野圭吾(ひがしの・けいご)『容疑者Xの献身』(ISBN:4163238603)を題材にした読書会が開催されたので参加してみた。
 この作品を文学研究科の人たちが,どのように捉えているのかに興味があって出かけていったわけなのですが,論点は「『容疑者X〜』は本格ミステリであるか」論争でした。何でも,発端は二階堂黎人の発言とのこと。

 『ミステリマガジン』にて誌上討論が繰り広げられているが,2006年3月号(ISBN:B000E5KWEK)においては,

 これは「限りなく本格に近い(広義の)ミステリー」であり,「叙述トリックを駆使した〈捜査型の小説〉であるというのが正しい

とする。これに対して数多くの論者が討議に参加しており,この議論状況について検討を加えるというのが読書会の趣旨。参考資料の取り寄せを頼んだら,以下の資料が送られてきた。

分量は多いが論点が明確であったため,さほど大変ではなかった。むしろ評論が豊富に出ていたおかげで,理解の助けとなる。
 このなかで異彩を放っているのは笠井だろう。文献《1》において笠井は,二階堂が「『容疑者Xの献身』の探偵小説としての二重性を正確に把握しえていないからだ」と説き伏せている。私にはこれで十分と思われたのだが,最新の文献《2》では少々首を傾げる方向に。そもそも,

「真の〈問題〉は,〈ホームレス〉が見えなくなっている本格ジャンルの荒廃なのだ」
前掲・文献《1》23頁

って何? さすがセミプロが集まる読書会だけあって探偵小説に明るい人が複数いたので,これ幸いと色々教えてもらってきた。
 本格論議を離れて参加者の作品評価を突き合わせてみるというのもしたのだが,これが様々。本作を「裏返された『電車男』」として位置づけるという視座が提供されたところで,それをマイナス要素にするものも居れば,プラスに評価する者も。私なんかは,犯人の動機が開示されていることに対して驚いてみたり(それは森博嗣の読み過ぎだ)。そもそもミステリーとして読むかどうかについても見解が分かれたり。多様な読みにも耐えうるということが,『このミステリーがすごい!』(ISBN:4796650334)ならびに『本格ミステリ・ベスト10』(ISBN:4562039728)において多くの支持を集めた理由だろう。久しぶりに感想を直にぶつけ合って,なかなかに楽しい思いをしてきた。
 ともあれ私は『容疑者Xの献身』という作品を面白く読み終えました。ミステリの側面と大衆娯楽小説としてのバランスが取れていると思う。