美少女ゲーム年代記: 1986「〈美少女〉の生成」

 これまでは1980年代中葉を対象に,主にADVにおいて起こった変化を述べてきた。続いては,ADV以外の領域において触れておこう。

RPG

 RPGは海外製の『Ultimaウルティマ)』(1979年~,オリジン社)や『Wizardryウィザードリィ)』(1981年~,Sir-Tech社)によって幕を開けた。これが日本国内で制作されるようになると『ハイドライド(Hydlide)』(1984年,T&E SOFT*1)に代表されるようにアクション性の強いロールプレイングゲーム作品(ARPG)が主流を占めるようになった。なお,ARPGは家庭用ゲーム機に装備されているジョイパッドでの操作に向いていることからコンシューマーへの移植が活発に行われ,後にはパソコンの分野で廃れてしまう。
 そうしたARPGを代表するものに,日本ファルコムの《ドラゴンスレイヤー》シリーズがある。同シリーズの地位を確立したのは第2作の『ザナドゥXanadu)』(1985年,日本ファルコム)であろうが,美少女との関連では第3作の『ロマンシア(Romancia)』(1986年10月*2)に着目しておきたい。『ロマンシア』のゲームそのものは画面上に描かれた小さなキャラクターを操作するタイプのものである。しかしながらオープニングなどでは都築和彦(つづき・かずひこ)の描くイメージイラストが表示され,かわいらしさを前面に押し出すアプローチを採っていた。当時,都築はファルコムの社員であったが,後にマンガ家・イラストレーターとして独立している。また,同じく日本ファルコムの《イース》シリーズも忘れてはならない存在である。『イースⅠ(Ys I)』(1987年)では囚われの少女としてフィーナ(Feena)が,『イースⅡ(Ys II)』(1988年)ではオープニングで振り向く可憐な少女リリア(Lilia)が強い印象を与えるなど,彩りを添える〈美少女〉が活躍している。
 一般向けパソコンゲームを長年に渡って作り続けている工画堂スタジオ(KGD)であるが,SF-RPGとして発表された『コズミックソルジャー(COSMIC SOLDIER)』(1985年)という作品では,アダルト要素が付加されている。操作画面の左端には露出度の高いアシスタントアンドロイドが一際大きく描かれているなど,お色気を打ち出す造りとなっている。

戦闘美少女の移入

 これまで見てきたように,パソコンゲームにキャラクターとして女性を登場させることは頻繁に行われてきた。しかしながら1980年代の前半時点では,ゲームの中での女性イメージは多様であった。それが1つの系統へと方向性を固めて行ったのは,1986年頃のことである。
 最初に見ておきたいのは,スクウェア(SQUARE)の動き。後に『FINAL FANTASY』シリーズを手掛けることとなる坂口博信(さかぐち・ひろのぶ)が1985年9月に発表した『Will -The Death Trap 2-』という作品である。副題から分かるようにシリーズになっているが,前作『ザ・デストラップ』はハードボイルド仕立てであったのに対し,『Will』の方は「SF」と「アニメ」が売りになっている。オープニング画面では,アンドロイドの「アイシャ」の横顔が映しだされ,瞬(まばた)きをする。本当に些細なアニメーション効果に過ぎないのであるが,当時はこの程度の簡単な動きであっても素早く処理をするには高度な技術力を必要とした。パソコンゲームの画面は静止しているのが当たり前で,動いているものはカーソルの明滅だけであった時期,アイシャの「目パチ」は印象深く受け止められた。

 翌1986年7月,スクウェアは『α ALPHA』を世に出す。
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 『夢幻戦士ヴァリス(Valis: The Fantasm Soldier)』(1986年12月,日本テレネット)の出現が決定的なものであったと言えよう。ヒロインは「ごくありふれた,普通の女子高生」優子。その優子が,夢幻界の女王により〈明〉の戦士として選ばれ,〈暗〉との戦いに赴く――というのが筋立ての横スクロール型アクション・ゲームである。アクション・シーンの合間にヴィジュアル・シーンを挟むことで,シナリオ性も兼ね備えていたところにゲームとしての工夫が凝らされていた。しかし〈美少女〉という観点から見て何よりも特筆すべきは,ヒロインらのコスチューム。胸にはビキニの甲冑,腰にはわずかの布地をまとい,幾つかの装飾品を身につけてはいるものの肌の露出を可能な限り最大化すべくデザインが施されている。セクシャリティを喚起する
 今日に続くパソコンゲームの〈美少女〉像が「アニメ調で描かれた女子高生」であるのは,『ヴァリス』の寄与したところ大である。第2作『ヴァリスⅡ』ではキャラクターがしゃべるシーンが用意され,声優には島本須美榊原良子が起用されるなどしたことも人気を高める要因となった。

アニメからの照射

 さらに遡って『夢幻戦士ヴァリス』に登場する〈美少女〉像の原型を探すと,アニメ作品の中にその姿が認められる。『ヴァリス』のコスチュームに直接の影響を与えたものとして指摘されているのは『幻夢戦記レダ』(1985年3月)。『レダ』はOAV(オリジナル・アニメ・ビデオ)の初期を飾る作品であり,劇場公開もされている。キャラクター・デザインは,先に挙げた『ALPHA』と同じく,いのまたむつみ

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 『レダ』や『ヴァリス』に見られる露出度の高い美少女の姿は,この時期に共通する符合とも言える。テレビアニメ『うる星やつら』(1981年10月~86年3月に放映)のラムが,トラ模様のビキニ姿であることはお馴染みだろう。『ダーティペア』(1985年7月~同年12月に放映)のユリ&ケイにしても,戦闘コスチュームはセクシーさを表現するものになっている。OAV『ドリームハンター麗夢』(1985年~)の綾小路麗夢(あやのこうじ・れむ)になると,もはや「淫ら恥ずかしい」とまで作中で言われるほど(それと言うのも,『麗夢』の第1作はアダルト作品だったことに起因する)。

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 順番が前後するが,アニメによるポルノ表現の試みに際しては《くりいむれもん》シリーズの影響を抜きにして語ることはできないだろう。1984年からOAVとしてリリースが開始され,40作近くが制作された。兄妹の近親相姦を描いた『媚・妹・Baby』,学生寮におけるレズを題材とする『エスカレーション』,「メイドさん」を登場させた最初の作品と言われる『黒猫館』など様々なモチーフが取り入れられている。前述した,露出度の高いバトルコスチュームにしても『SF超次元伝説ラル』(1984年~)にその姿を認めることができる。
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 パソコンゲームにおける〈美少女〉の姿が劇画や実写に向かわず,頭身が低めな思春期の女性をモデルとするようになったのは,1985年前後の時期にアニメの基調をなしていたヒロイン像を反映しているものとして差し支えあるまい。