美少女ゲーム年代記: 1994-1996「時をかえる剣乃」
/* プロット */
- 「同級生」(1992年,elf)において,AVG系とSLG系という2つの流れがRPG型のゲームシステム上で融合する。以降,様々な試みがなされ,ゲーム性についての模索が為された時期。
- マッチョで強い男根主義的な主人公(アリスソフトの「ランス」など),同時攻略という制度。
- 蛭田昌人に真っ向から立ち向かったのが剣乃ゆきひろ。『EVE burst error』(1995年,シーズウェア)での「マルチサイトシステム」を経て,『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』(1996年,elf)で「A.D.M.S.」という極みに到達。進化の頂点に立ち『同級生』と並び立つに至ったが,「同級生2」(1995年,elf)と同様,進化の行き止まりへ。
誕生,シーズウェア
シーズウェア(C's ware)は,姫屋ソフトの1ブランドとして登場した。デビュー作『禁断の血族』(1993年11月)は,かなりの衝撃をもって迎えられた。俗世との交流を断った洋館を舞台にインモラルな展開が繰り広げられる作品である。続に《館もの》と称される物語空間を舞台にしたことや,前時代的な存在としてメイドさんを登場させたこと等,それまであまり見られなかったシチュエーションが斬新であった。加えて,過激性の強い性描写も高く評価された点である。
その翌月に発売されたシルキーズ(=エルフ)の『河原崎家の一族』(1993年12月,ASIN:B0000E1W1L)も同様に《館もの》でありインモラルな雰囲気を醸し出していたという事情が相乗効果を生み,両ソフトハウスは登場して間もないにもかかわらず一気に過激路線の雄たる地位を占めることになる。
- http://spdwgn.net/m-kindan_no_ketsuzoku.html
- http://www013.upp.so-net.ne.jp/ymurakami/guide/kindan.htm
- http://gyut.to/category.phtml?enc=yboi83JpH7KTdw== (DL販売)
- http://www.bb5.jp/adult/soft/soft_data_out.php?titleno=905 (DL販売)
『河原崎家の一族』は,高額な報酬につられて「河原崎邸」にアルバイトとして住み込むことになった主人公を操り,一般社会から隔絶された「河原崎邸」と,狂気に支配されたその住人たち……河原崎家の一族の支配から脱出することをテーマとしたアドベンチャーゲームであり,現在はゲーム界における定番の一分野としてとして認知された《館もの》――周囲から隔絶された閉鎖空間からの生還を目指すジャンルのわが国における古典として認知されているだけでなく,「ひとつのゲームにシナリオはひとつ」という従来のアドベンチャーゲーム界の常識を覆し,プレイヤーの行動次第で複数のエンディングを迎えるという,いわゆる「マルチエンディングシナリオ」初期の名作として知られている。
http://www.milkyhorse.com/archives/001318.shtml (id:milkyhorse)
翌1994年2月に,シーズウェアの第2作として製作されたのが『悦楽の学園』(ASIN:B0000U1E2Iに同梱)。剣乃ゆきひろは,この作品でシナリオライターとしての初仕事をする。
男子禁制の秘密の花園,雨宮学園。そこに潜入した工作員からの連絡が途絶えた。一体何があったのか? 恋人兼連絡役の由美が続いての潜入を俺に指示してきた。そこで待っていたのは,女子高で繰り広げられる様々な悦楽の光景だった。
作品紹介(http://www.getchu.com/soft.phtml?id=269)より引用
DESIRE‐背徳の螺旋‐
1994年7月,シーズウェアの第3作として『DESIRE(デザイア) ~背徳の螺旋~』が発売される
数ある剣乃ゆきひろ作品の中でも本作が《剣乃三部作》の端緒とされているのは,1つの物語を複数の視点から眺めるマルチサイト・ストーリーという手法が導入された記念すべきだからである。
『DESIRE』という物語は,孤島の研究所に勤めるマコトのところへ,新聞記者のアルバートが取材に訪れるところから始まる。外部からの来訪者である男性(アルバート・マクドガル)を視点人物とする第1シナリオと,研究所内部の女性(マコト・イズミ)を視点人物とする第2シナリオが提示される(そのいずれから開始しても良い)。
以下,概略を述べていこう。
予定より早く到着したアルが島内を散策していたところ,海岸に打ち上げられていた少女ティーナを助けることになる。
(中略)
第2シナリオを終えてもなお,謎が残されている。そこで新たに開かれるのが,プレイヤーには事前に存在が知らされていなかった第3シナリオである。そこでプレイヤーは,第3の視点人物を解して真実を知らされ,驚愕することになる。
種明かしをしよう。アルが助けた少女「ティーナ」と,マコトらを使って研究を進めている教授「マルチナ」は同一人物だったのである。この物語では同一の時間軸上に同一の人物「ティーナ=マルチナ」が重複して存在していることになるが,その時間のねじれを生み出したものこそがデザイアという施設が研究に取り組んでいた《装置》であり,その装置を生み出した人物もまた「ティーナ=マルチナ」だったのである。
右に掲げた図は,ティーナとマルチナが辿る時間の流れを示したものである(図版製作:なっきー)。すなわち,《装置》の暴走により,いったんアルとティーナは別の時間軸へと飛ばされ(t8→t8’),そこで6年近くの歳月を共に過ごす(t8→t10)。そして,次に《装置》が稼働した際にアルだけは元も時間軸へと復帰するのだが(矢印A),ティーナは時間を遡ってしまう(t10→t0)。この時間軸上で「ティーナ」は研究を進めて「マルチナ」となり(A→M),アルと再び相まみえることになる。その再会の場面こそが,この『DESIRE』という作品の冒頭シーンだったのである。しかしながら,結局は自身が囚われている時間の因果律から逃れ出ることができないままであるため,この物語は終わりを迎えることがない。
行きつ戻りつ世界を進んでいく線とDESIREのサブタイトルを思い浮かべて欲しい。そう,ティーナとマルチナの生きている世界線は単なる螺旋ではなく,『二重螺旋』なのである
http://rina.nadenade.com/nackey/talks/desire/part3.html (制限酵素の投与法 ―ティーナとマルチナの場合―)
本作にはハッピー・エンドが用意されていない。「ティーナ=マルチナ」は螺旋を描く時間軸の中に囚われ続けたまま物語は終了する。数多くのユーザーが「ティーナ=マルチナ」を螺旋から救い出そうと考えをめぐらせ,そして挫折していった。
なお,1998年になってWindows向けに手直しされた『DESIRE 完全版』(ASIN:B00008HWIV)があるが,剣乃ゆきひろがシーズウェアを離れた後で追加された「第4シナリオ」はまったくの蛇足であり,評価を損なうものであろう(原画もやさまたしやみから田島直に変更になっている)。EVE burst error
(※以下,はてなダイアリーキーワードの解説文として,筆者が2004年1月に書いたもの)
1995年,シーズウェア
続く『EVE burst error*1』(シーズウェア)では、相互に干渉する時間を描いた。つまり、「Aの朝」→「Bの朝」→「Aの午後」といった具合である。読み手は、2つの人物の視点を行き来することにより、徐々にシナリオを読み進めていくことになる。
この世の果てで恋を唄う少女 YU-NO
1996年,エルフ
こうした物語時間を制御する努力は、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』(略称YU-NO)によって完成に達したと言って良い。この作品の第一部では4人の人物との関係をもとに物語が展開していき、複数の時間軸(分岐した世界)を縦横無尽に往来することによって、謎解きが進められる。“burst error”においては視点の切り替えをどの時点で行うのかの判断に困難を生じていたが、本作では時間を絵地図で表すことにより難点の克服に成功している。
剣乃三部作の意義
「時間の流れは単一ではない」
「悲劇の導入」
*1:“EVE”を題名に冠する作品はシリーズ化されているので、副題に注意する必要がある。“burst error”は、近時リメイク版が発表された。