内向エロス

 陽気婢(ようきひ)『内向エロス』(ワニマガジン社)。

 知る人ぞ知る――つまり、あまり評価の高くない作家。それも、これから成長が見込まれる期待株ではなく、下降線をたどりつつある枯れた存在。新刊が出たというのに、さっぱり見向きもされていない。作者にしても、ウェブサイトには「謹賀新年」の文字が躍っていたりして、活力が鈍っているのは明らか。
 でも、素敵な作家なのです。
 トレンドから外れているのは、残念ながら認めざるを得ません。「キャラクター」というものにさほど関心を向けていない。その代わり、ストーリーに傾ける意気込みは並々ならぬものがある。着想が豊かで、奇抜な状況を次々と繰り出し楽しませてくれる。四角い吹き出し(ト書き)が多用されるのも、シチュエーションを重要視していることの表れ。予定調和に向けてシナリオを収束させようとするため、自然と説明が長くなる。
 私の思い描く理想の作家像に近い。と言いますか、私は陽気婢に《読み方》を習ったようなものです。それだけに、現況は物悲しい。
 『内向エロス』では、高校教師でエロ漫画家である竹井が、ひょんなことで漫画同好会の顧問になる。ところが、女子生徒・典子に裏稼業の顔がバレてしまって…… というお話。作中作として「竹井のマンガ」が挟み込まれる意欲作。
――だったのは、2001年刊行の第1巻だけ。読み返してみて、こんな設定があったのかと驚いてしまった(^^;) 第2巻以降は、ただの短編集になっています。《迷い》があったことは、容易に感じ取れる。それが今回の第4巻では、だいぶスッキリしたものになりました。この巻だけを取り出して読んでも楽しめる作品です。相変わらず甘ったるさ満杯だし、主人公は気弱な美少年だし、ブサイク男も出てくるし。自己模倣といえばそれまでなのだけれど、安定した枠組み(フレーム)の中での心地良さを陽気婢には描き続けてもらいたい。
 憑き物も落ちたのでしょうか。これをもって「第一部・完」とし、新たに出直すようです。


▼ 書評
http://www1.odn.ne.jp/kamiya-ta/hs&naikoueros.html紙屋研究所