米澤穂信 “Why didn't she ask EBA?”

 ミステリ研究会。本日のお題は,米澤穂信(よねざわ・ほのぶ)『愚者のエンドロール』(ISBN:404427102X)。
※ 以下,ネタバレではないのですが,未読者に対しては〈読み〉に影響を与える内容を含みますので,ご注意ください。
 本作に対しては,研究会の主宰者が

2002年 国内ミステリ ベスト10 第7位
「後期クイーン的問題への解答として」「うまくまとまっています。」
http://www.aurora.dti.ne.jp/~takuma/book/best2002.html

という短評を寄せていたことを引いて報告者は構造論をやろうと図ったものの,主宰者の抵抗を受けて破棄(笑)
 それでは,ということで,本作がオマージュを捧げている我孫子武丸『探偵映画』(ISBN:406185707X)との関連でミステリと映像の関係について話が展開をはじめたものの,「学園祭で映画を出品」というモチーフの共通性から『朝比奈ミクルの冒険』に誘導があったりして,おかしな方向での深読みが始まる。
 「折木奉太郎×福部里志とか?」
 「それは逆。里志×奉太郎だよ」
 「いやいや,ホータロ総受けでしょ」
という腐女子ちっく発言も飛び出したり……(注:文学研究科の某助教授室が会場でした)。
 閑話休題。レジュメの題名を「エバに尋ねよ,あるいは女神(イリス)に」としてきた報告者からは,副題と人物名から作品の読み解きが提案される。補足しておくと,『愚者のエンドロール』には旧版(角川スニーカー・ミステリ文庫版;高野音彦のイラストが表紙)と新版(角川文庫版)がある。
愚者のエンドロール (角川文庫)〔新版〕
どちらであっても作者からのメッセージは同じように仕込まれているのだが,新旧どちらの装丁を読んできたかによって読み手の認識には差が生じていたように感じられた。それは「ライトノベル米澤穂信」であるとか*1,「ミステリーとしての『愚者〜』の位置づけ」などの点に於いても。
 本書の副題は,

Why didn't she ask EBA ?

である。堅いミステリ読みの人たちは,これをアガサ・クリスティー『なぜ,エヴァンズに頼まなかったのか?(Why didn't they ask Evans ?)』(ISBN:4151300783)の単なるパロディと捉えていたようだ。事実,作者たる米澤の発言を遡ってみると,刊行直前に次のような告知をしている。

 題名は仮に「なぜ、江波に頼まなかったのか?」と付けています。不遜な。
汎夢殿 2002年2月17日

 ミステリ倶楽部から出る本には創元張りに英題がつきます。前作は諸般の事情から英題をつけるわけにいかず「HYOUKA」とそのまんまでしたが*2、今回は「Why didn't they ask Eba?」としました。未練ですね。
汎夢殿 2002年5月19日

――私見ですが,副題に留めておいたのは適切な判断だったと思います。ちょっと直裁的に過ぎますもの。
 こうした題名レヴェルでの印象操作が功を奏してか,表紙にしろ副題にしろ,「日常の謎」にしろ青春ミステリの捉え方にしろ,銘々の読み手が同じ作品を多様に解釈しているというのが面白い状況でした。私の気になっていた〈動機〉についても(id:genesis:20060601:p1),肯定的な人もいれば否定的な人もいて。
 そこへもって報告者は,登場人物名に込められた含意を汲み取ろうとして,こんなことを言い出したわけです。

  • 江波倉子(えば・くらこ)。古典部と入須冬美の連絡役。
  • 入須冬美(いりす・ふゆみ)。「女帝」の異名を取る。

 古典部シリーズには奇妙(というか無理のある)名前の人物が多数登場するので,仕組まれていたとしてもおかしくはないのですが。でも,そうだとしても入須の名前と役割に齟齬があるような……
▼ 関連

*1:えるたんはキャラ? それともキャラクター?

*2:引用者注:新版では“You can't escape”という副題に変更されている。

*3:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%AA%E3%82%B9