櫻井稔 『雇用リストラ』

 札幌は豪雪。櫻井稔(さくらい・みのる)『雇用リストラ――新たなルールづくりのために』(ISBN:4121015819)を読みつつ,雪が降り止むのを待つ。
 著者は労働基準監督官を退職した後,人事コンサルティングをしている人物。政・労・使・学のいずれにも与さない中立的な立ち位置から叙述されており,妙なバイアスがかかっていないので労働問題の入門書としては好適。
 本書が上梓されたのは2001年4月。不景気が10年近くに渡って続いたことで〈リストラ〉が発現可能性の高いリスクとして意識されるようになった状況を踏まえて書かれている。解雇を絶対悪と決めつけるのでもなく,かといってクビ切りを賞揚するのでもない。「会社の突然死」を防ぐためには解雇も必要な手段であると把握したうえで,あるべき解雇ルールについて論じている。
 本書のポイントを挙げていこう。まず第一に,「日本の終身雇用慣行」それに「米国では解雇が自由である」という《通説的な言説》を正すところから始めており,歴史上ならびに国際比較についても考慮が払われている点。人種差別と女性差別については米国の方が厳しいことは(おぼろげながら)知られていることかもしれないが,その事情を解雇規制全体の中で手短に説明しており,概要をつかむには手頃。
 第二に,リストラにおける〈希望退職募集〉の意義について1つの章をさいて詳述している点。整理解雇法理について触れている類書は多いけれども,希望退職を重視しているところは実際の相談業務に従事している実務家らしさだと思う。
 第三に,プロセスにおける意志決定への関与という視点から,労働組合の役割(コントロール機能)について語っている点。企業別組合に対して善悪二元論で決めつけを行っていないことは好意に値する。
 具体的なノウハウが書かれているわけではないので,紛争が生じてからでは役に立たないだろう。だが,労使関係の構築に際しての「心構え」とでも言うべきものが程よい分量の中で適切に記されている。些末な事柄に拘泥せず労使関係におけるルールの基盤を論じているから,5年を経た今読んでも本書の提言は有効だ。人事部門に配属されたばかりの人や組合役員に初めて選任された人が読むと,自身に課せられた役割を明確に意識できるようになりそうな一冊。